ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「安藤忠雄〜の挑戦〜」@国立新美術館

171206 これも姉が絶賛していて、そのうちに行くつもりではあったが気がつけば会期も残りわずかとなり、昼から某財団の、才能ある若手オペラ歌手海外留学支援選考会を聞いた後、あわてて乃木坂へ。詳細▶︎ 安藤忠雄展

安藤と言えば、最近物議をかもした例の新国立競技場で、故ザハ・ハディドの作品を審査委員長の立場から押して、ミソをつけたことが思い出される。ああいう役回りは本来受けるべきではなかったと思う。彼の人となりからして、苦手な分野だと思うのだが。

安藤の生き方や作品概要はテレビでもこれまで何度か放映されているし、直島にも10年以上も前だが、実際に行ってベネッセ経営のホテルにも宿泊し、島内にある彼の作品はことごとく見ているので大体は承知しているつもりであったが・・・。

すばらしい展示に圧倒された。これほど彼の作品の集大成を詳細に見られる展示会は、空前絶後かも知れない。平日午後の遅い時間帯だったが、混雑は予想以上、若い人が多かったのが印象的。建築を学んでいる現役の学生や、若手建築家も相当混じっていた。展示品や資料への接し方でそれと分かる。

やはり今回の目玉は美術館裏側野外展示場に実物大で作られた「光の教会」(大阪・茨木)インスタレーションか。

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当初、このインスタレーションのとおり、素通しで何も入れない計画だったらしいが、それでは、冬季、信者が寒がるからと言う理由で本物の教会の方にはガラスが入っているらしい。

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⬇︎ 細いスリットでも、これだけの光量が。

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すこぶる単純な構造なのは外側を見ればなお明白。コンクリート・ブロックに隙間を入れただけのこと。

彼の波乱万丈の人生は散々紹介されているから、多くの人が知っていようが、最初の職業がボクサーというから、驚く。しかし、美術にはもともと関心が高かったようだ。

1965年に当時最も安く行けるシベリア周りで欧州へ。あちこち巡り、インドやアジアを経由して7ヶ月間建築物を見て回ったという。先日テレビの番組で語っていたが、この旅行のために貯めた金額が70万円というから、なるほどと合点が。

というのも、筆者もちょうど同じ頃(1964年)に欧州へ行っているが、フランス郵船での往復と滞在費で計80万円だったから。行く前からしっかり目的を持って、朝から晩まで徹底的に歩き回り、この旅を通じて人生の目標を確固たるものとして帰国したのだから、大したものだ。やはり天才と呼ぶべき人物なのだろう。

会場を回って、実にこれだけの作品数が世界中に散らばっていようとは思ってもみなかった。凄まじい数である。海外建築家のデザインをありがたがって採用していた時代もあったが、もはや日本の建築水準は完全に世界のフロントランナーになった感を改めて持った。

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直島プロジェクト紹介ブース。ジオラマと動画で詳細に紹介されていた。ここは撮影OK 。

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直島全島のジオラマ。島中に作品が点在しているので、こうでもしないとよく分からない。

他に大いに興味をそそられたのはヴェニスとパリのプロジェクト。ヴェニスのS字大運河の出口右岸にあるPUNTA DELLA DOGANA(税関の先端)の古い建造物の内部に、床補強をした上で、箱型のユニットを埋め込んで美術館としたもの。定点撮影で、どのような工事をしたかが分かるようにした展示自体もすぐれているが、こういう発想をするところが天才たる所以だろう。

もう一つは、パリの元中央卸売市場のLes Halles(レ・アル)地区にある丸屋根を持つLa Bourse(元商品取引所、現在、パリ商工会議所)の躯体そのものに、円柱状のユニットを入れ込んで、同様に美術館仕様にしたプロジェクト。すっかり安藤の作品に魅了された実業家フランソワ・ピノーが彼を中心的なデザイナーとして招いて完成したもの。大胆、かつ斬新で、見るものを唸らせる。

この実業家、実はもう一つパリに安藤と組んでやろうとしたのだが、挫折したプロジェクトもある。ルノー発祥の地、セーヌ川が南西へ大きく蛇行する部分にある中の島、セガン島に斬新なデザインの音楽堂を作る計画を立てたが、いかなる事情か撤退。代わって、現在は坂茂デザインの建物が建っている。コンペに負けたということか。さすがにその辺は展示では詳細説明がない。

他にも大阪出身だけあって、殊の外、大阪に思い入れの強い安藤、中之島に子ども図書館のプロジェクトが進行中だし、桜並木もすでに完成している。

彼は現在、癌の手術で大事な臓器をいくつも失っているから、万全とは言えないが、まだ76歳、更なる活躍を強く望みたいところだ。