ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「新世紀、パリ・オペラ座」

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パリ・オペラ座と聞けば即座にパリ九区にあるオペラ座通りの突き当たりにある例の壮麗な建物、ガルニエ宮を思い浮かべる。ただ、現在は主としてバレエはここ、オペラ上演は主としてバスティーユに出来たオペラ座(オペラ・バスティーユ)と棲み分けている。

パリ・オペラ座を扱った映画は近年多数公開されているので、かなり混乱する。本作は、タイトル通り、最新のオペラ座Opéra Nationale de Paris)を多角的、立体的に紹介するもの。

オペラ、バレエ、それぞれの練習風景、本番、オーディションの様子、経営陣が今後のあり方や値付けなどについて話し合う姿、組合側との緊迫の折衝場面、恵まれない小・中学生対象の音楽教室運営のサポートなどなどが入れ替わり立ち替わり映し出される。

一般人にはうかがい知れないような奥乃院が紹介されていて興味が尽きない。特に衣装部門や、本番における主要キャストに対するアシスタントたちの甲斐甲斐しい姿などなど、カメラを意識させず、ごく自然なままで撮影できたものと感嘆するばかり。また、膨大なデータを2時間弱にまとめる編集力が素晴らしい!

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そんな中、中部ロシアのオレンブルグという小さな町出身のミヒャエル・クプファー=ラデツキー(ミーシャ)⬆︎という若手バリトンが、オーディションで圧倒的な評価を得て、ろくにフランス語も喋れない中で、パリで新生活をスタートさせる姿を追う。

世界の芸術の中心とも言えるパリで、ロシアの片田舎出身の青年にしてみれば、見るもの、聴くもの何もかもが新鮮で、驚きの日々。オーディションで成功したと言え、オペラ座ではひよこ扱いで、徐々に不安を感じ始める。世界超一流の歌手ばかりが入れ替わり登場する舞台を見るにつけ、果たしてこんな自分でもやっていけるのか、焦りすら感じる。

それでも周囲に勧められるまま、開いたリサイタルは大成功、そこにはファンにもみくちゃにされ満面の笑みを浮かべるミーシャの姿が。世界の表舞台でのほんの小さな一コマだが、そこを中心にして本作の構成がされていたように思う。

それにしても、豪華なシーンの連続で、オペラファン、バレエファンには必見の作品。音楽監督のフィリップ・ジョルダン(スイス、44歳)の若々しい指揮ぶり、バレエ界のレジェンド、バンジャマン・ミルピエの胸のすくような小気味よい指導、とりわけ総監督、ステファン・リスナーの全方位に完璧な目配りをする統率ぶりには感銘を受ける。

彼の下で、袂を分かつことになるミルピエが別れの挨拶をするシーンも含まれている。振付師としては完璧でも、160人のダンサー達を率いていくだけの統率力に欠けるという理由で、リスナーは泣いて馬謖を斬った印象。他にも本番を間近に控えて、ストを打つという組合とのギリギリの交渉や、2日前に体調不良を訴える主役級歌手の代役探しの場面なども興味津々。

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果たしてミーシャは、将来、オペラ歌手として大成するだろうか。

#85 画像はIMDbから