ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ヒトラーに屈しなかった国王」

171226 原題:KONGENS NEI(国王のノー、ノルウェイ語)

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こういう立派な元首をいただいた国民は幸せだ。本作を見ていて、日本と共通する部分もあるのだが、決定的に違うところが、国王が敢然とナチスにも、また政府に対しても自分の意思を伝えて、その通りにさせたことだろう。また息子でもある皇太子に対しても「自分たちは国民に選ばれた王室であることを忘れるな。すべて祖国のためである」と諌める場面も涙を禁じ得ない。

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⬆︎逃げ延びた先にナチス爆撃機が襲いかかり、国王も皇太子と必死で逃げ惑う。

エスかノーかと迫るヒトラーに、ノーと言えない内閣と国境の町での粗末な集会場で対峙、こんな大事なことを我々だけで密室で決めてしまったら、後でどう国民に説明するのだ!この一言がまた泣かせる。密室政治がはびこるどっかの国とはえらい違いである。

1940年4月9日からわずか数日しか本作では描かれていないが、そこでノルウェイの将来が決定したと言っても過言ではない。結局、ナチスに国土を踏みにじられ、王室も英国に一時亡命するが、5年後、ナチスが崩壊し、国王一家は熱狂的に国民に迎えられる。この時のホーコーネン7世はすでに老齢で、腰痛をおして戦火を逃げ延びる経験もする。

現在は、映画では5歳児ぐらいに描かれている孫のハーラル5世が国王。この一家、もともとはデンマークから1905年にノルウェイに請われて元首として入国した。

この辺り、日本人にはなかなか理解しずらいが、ヨーロッパの王室同士は婚姻による結びつきが深く、この時もホーコーネン7世の兄はデンマークの国王であった。

映画の後半で、駐ノルウェイのドイツ公使が国王との直接交渉をヒトラーから直々に命命令され、協定書をつきつける。だが、国王が一向に署名しないのに、業を煮やして「お兄様がなさったように」と言った瞬間、「私は私だ!」と激怒する場面が描かれている。⬇︎ついでだが、この公使、署名が取れなかったことで東部戦線に飛ばされ、ソ連軍の捕虜になりシベリア送りになったそうだ。

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本当に誰からも敬愛された国王だが、雪の中、避難しようと立ち寄る先に、それと知らぬ2等兵の若者が検問しようとする場面がある。窓を開けた国王を見た瞬間、若者はまるで映画スターを見るような眼差しになり、「ああ、王様!」と一言。さらに「国王のために頑張ります!」と言うと「いや、祖国のためだぞ!」と優しくたしなめる。

言われた2等兵は負傷するが、今も生きているそうだから、これは実話に近い挿話だろう。

#92 画像はIMDbから