ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ラ・ボエーム」をセミステージ形式で楽しむ@人見記念講堂(三軒茶屋)

180204 出演者のブログで偶然知った公演。すぐに当該出演者に連絡してチケット手配してもらったら、素晴らしい席で、感謝、感謝!

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セミステージというのは、演奏会形式とほぼ同義語ということだろう。要するにないのは舞台装置だけで、その他は本公演と同じということ。金はそれほどかけずとも、客にはたっぷり本来のオペラを味わってもらおうという主催者の気持ちの表れだろう。それをありがたく感じる公演だった。

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ただ、この会場、2000を超える収容力はすばらしいし、1980年のオープン以来、名門ホールの一つとして内外の有名楽団や指揮者、名歌手たちが多数登場してきたことは知っているが、残念ながら、老朽化が急速に進んでいるのは認めざるを得ない。客席も、舞台も、見るからに古色蒼然としている。通路が昨今の新しいホールと違って、やたらに広いのは嬉しいことだが、早めに立て替えた方がいい。そうでなければ、部分改修だけでもどうなのだろうか。

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世田谷には、こう言ってはなんだが、文化・芸術を重んじる区とは思えないほど、ちゃんとしたホールがないので、いきおい一大学の施設に頼ってきたというのが現状だろう。

さて、セミステージ方式での舞台だが、一部彩色をほどこした縦横60cmほどの箱が10個ぐらい並べてあり、これをいろいろ組み合わせて、家具やベッドに見立てるという演出のようである。衣装は全員白が基調という、やや異例のスタイル。

舞台奥に合唱団用と思われる山台が見えていて、これを動線の一部として使用したのだが、どうにも目障りで、手前に幕でも下ろしたら、もう少し手前で演技する主役たちが引き立ったかなと思ったが、字幕が一番奥に表示されるし、そもそも当初から無理だったようだ。

世田谷フィルの面々も結構な数だったようで、金管の中、トランペット、トロンボーンは下手舞台上、パーカッションの鉦とティンパニー以外の奏者はやはり上手舞台上に陣取る形で、進行。しかし、演奏そのものは立派だったし、言うことなし。

2幕から登場する合唱団、観客席側から黒い塊がわらわらと現れ、手を振ったりしながら、舞台上へ。伝統ある合唱団のようで、しかも数も結構多い。御多分に洩れず若手は少なかったが、熱演だった。なかでも少年少女合唱隊の演唱は光った。鼓笛隊も、遅れて登場し、しかも客席での演奏で、舞台との掛け合いの間がとにりくかったろうに、すまく連携していた。Bravi!!

さて、お目当の高橋絵理のミミ、何年か前にザ・高円寺で聞いて以来と思うが、大柄ではあるが、それは純情可憐なミミを上手に演じられていた。今回もオペラグラスで表情を事細かに観察していたが、自分が演じていない時の表情が実に細やかで、そういうところにもいちいち感動してしまった。特に3幕、4幕の切なさには涙が自然に溢れた。

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終演直後ゆえ、顔がまだ演技中という印象。とりわけロドルフォが仕切りに涙を拭う姿が印象に残った。晴れやかなショナール(今井 学)の表情とは対照的だ。左端はベノワとアルチンドロを演じたバリトン畠山 茂

ロドルフォの村上公太だが、最近新国で「こうもり」をやっていたばかりで、すぐラ・ボエームの稽古に入ったそうだが、以前この役をやっていた経験がモノを言ったらしい。それにしても、この人の最近の伸び方は素晴らしい!

ムゼッタは、ただいまウィーンで勉強中の鈴木玲奈、なんどか聞かせてもらっていて、うまさは天下一品。軽やかで伸びと輝きのある高音が大変魅力的なソプラノ。高橋絵理との絡みも自然でよかったと思う。

#10 文中敬称略