ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ジャンニ・スキッキ」+「道化師」@箪笥町ホール

180219

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ご贔屓の青栁素晴出演ということで、風邪気味のところ、牛込まで出かけた。なんとも人を食ったようなチラシだが、主催者のOpera Project ANCORAとは、演出の三浦安(アンコウ)をもじったことは容易に想像できる。2007年から活動している団体らしい。企画・構成・演出を三浦安がやるわけだが、根っからのオペラ好きらしく、実に詳しい。

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開演前に、さっそくこの三浦安が舞台に登場して、プレトークとして、それぞれの作品を詳細に解説してくれる。「ホゥー」というような内容なのだが、場内が明るくしてあり、まだ入場する客がいるから、ザワザワしていて、あまり聴いていない人が結構いたのは実にもったいない。

⬆︎例によって、平土間に椅子を置いて、かぶりつきの席が用意されている。「ジャンニ」では、舞台前に、小舞台が島のように設置してあり、後半の「道化師」では、この”島”を舞台にピタッと付けて「せり出し」として使っていた。

また、全体的に手狭なホールなので、客席両側通路や中央通路などを縦横に使う演出は、だいたいここでの定番である。こうして空間を立体的に使う効果は抜群で、中にいる観客には、舞台人と一緒に演じているような感覚にとらわれることがある。

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今日はジャンニ、そして道化師の順に演じられた。

まずはジャンニだが、これがダンテの神曲から取られたオペラ作品というのは、やはり注目点。だた、神曲に目をつけたのは台本作者でも作曲のプッチーニではなく、19世紀後半、ある文献学者の書いたものの付録についていた解説文というから、随分手の込んだ経過を辿ったもの。

ともあれ、プッチーニが残した唯一のオペラ・ブッファに数えられるのだが、毎回、ニヤッとする程度で、まあ言って見ればドタバタである。奇想天外な演出を得意とする三浦安浩だが、今回両作品ともかなりまともな演出に終始。強いてあげれば、狂言回しのような役割を「地獄めぐり案内人」として割り振ったことぐらいかな。

ジャンニでは、ラウレッタ(藤井 冴)の歌うアリア、O MIO BABBINO CAROだけが飛び抜けて有名で、このアリアがあるから、ジャンニが上演されると言ってもいいほど。

ただ、今回じっくり聴いたがリヌッチョ(青栁素晴)の歌うFIRENZE È COME UN ALBERO FIORITOフィレンツェは花咲く木のように)もなかなか聴かせるアリアなのだ。青栁、相当調子がいいようで、快調に歌っていた。もちろん、藤井の「私のお父さん」も、可愛らしい感じがよく出た、確かな歌いっぷりだった。

まあ、あとはいつものスッタモンダの大騒ぎで、慌ただしく終演。

休憩後、案内役が登場して、ジャンニに続いて再び笑いと取っていた。日本語で案内をしてくれるのはアイディアとして、悪くないし、歌がないのに、顔の表情と演技だけで、鈴木麻由など、それなりに存在感は示したと思う。

「道化師」で魂消たのは、今井俊輔!!過去、何度も聴いていて、その実力のほどは知っているが、今日の口上を聴いていて、モノが全然違うなと感じたのは、私だけではないだろう。こんなこと言っては、ほんとに申し訳ないが、主役が食われていた感が強い。もちろんカニオの上本訓久(うえもとのりひさ)も全力投球でいい味、出していたのは認めるが。

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ところで、今回の上演はイタリア語なのだが、字幕なし!!!ちょっとあり得ない上演ではないかな。少なくとも、愚亭は経験がない。両オペラとも、よく知られた作品とは言え、ないならないなりに、事前にどっかに表示すべきだろうと思った。チラシにもプログラムにはそのようは説明は皆無。

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いくら短いと言え、また、いくらよく知られたオペラと言え、事前の断りなく字幕なし原語上演というのは、どう評価されるのだろうか。こちらは、ある程度内容は知っているし、原語もある程度分かるけど、初めて、あるいは数回しか観ていない観衆に、あの程度のプレトークだけで上演を楽しんで欲しいというのは、無理がある。これは、やはり来場客に親切な上演とは言えない。そこが残念だった。

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終演後、ロビーには2演目の全キャストが舞台衣装のまま並び、ファンたちが入り乱れて交歓が始まり、出口に向かうのに難渋するほど。でも、ファンには、これは大変嬉しいサプライズになっただろう。

#12 文中敬称略