ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「シェイプ・オブ・ウォーター」

180308 THE SHAPE OF WATER 米 124分 原案・製作・脚本・監督:ギレルモ・デル・トロ そう、何から何までデル・トロが一人で作ったと言っていい作品。

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あえて1962年という米ソ冷戦下で、なんかもやっとした空気感の漂う時代設定、こういう時代だからこそデル・トロはこうしたファンタジーワールドを描きたかったのか。なにやら、「E.T.」や「美女と野獣」を思わせるような展開。

秘密軍事研究所で働く失語症で、見かけもパッとしないオールドミス、イライザ(サリー・ホーキンス)、ある日、ここに運ばれてきた半魚人(両棲類)を偶然見かけ、興味を抱く。そここそが彼女の変わったところだ。普通の女子の感覚では、見た瞬間に卒倒するかも知れないほどグロテスクな存在なのだから。⬇︎目の部分は特殊メークで今回アカデミー賞を受賞した辻一弘の作品とか。

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それから、こっそりしのびこんで、ゆで卵を与えてみたり、ベニーグッドマンのスジングジャズを聞かせてみたり、どんどん半魚人との差をつめていくのだが、秘密軍事研究所で、ただの清掃員が簡単に極秘研究対象に近づける不思議!

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研究所にはソ連のスパイが権威ある博士として潜入していて、宇宙を目指し米ソがしのぎを削っている折だけに、ライカ犬に負けるなと檄を飛ばされ続けているから、半魚人の活用法に知恵を絞る。

そんな米ソのスパイ暗躍下で半魚人の運命やいかに?生体実験に回されそうになるのを必死で回避を企むイライザと彼女に好意的な周辺の人物たち。結局、雨の日に海に戻すことにして、とりあえずイライザの自宅へ。(アマゾンで捕獲されたとされるなら、海でなく川でないと。そう言えば、イライザの自宅で、半魚人が弱っているのを見て、塩、塩と慌てるシーンも変だが)

この作品、まあ水がテーマだから、冒頭からブルー・グリーンの世界が広がり、ラストもまたしかり。半魚人もまさにそのカラー。ただ、最後のシーンには主人公に真紅のコートを着せ、真っ赤なハイヒールを履かせて、色彩効果を効かせている。

それと、半魚人研究の陣頭指揮に当たるエリート軍人、ストリックランド(マイケル・シャノン)が、マイカーをキャデラックの最新型に買い換える際、販売員から今は未来を感じさせる緑色(グリーンでなくティールという、真鴨の頭の色)を勧められ、しぶしぶその色の車を購入するシーンが出てくる。

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マイケル・シャノン⬆︎、これほどアクの強い男優も珍しいほど。容貌魁偉は言い過ぎだが、目力が半端なく、ガタイもでかいから、本作の役のように、やたらに少々思考だけが強くそのためなら、なんでも犠牲にしちゃうような役柄が圧倒的に多い。普段はどんな人物なのか、興味が湧く。

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アカデミーでは、作品、監督、作曲、美術の4部門で受賞、ノミネートされたのは、主演女優賞助演女優賞オクラヴィア・スペンサー⬆︎)、助演男優賞リチャード・ジェンキンス)ほか、全部で9部門というから、たいしたもの。

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半魚人のコスチュームの準備。特殊メイクも加えると毎回3時間を要したらしいが、扮したダグ・ジョーンズに言わせると、同監督で撮った「パンズ・ラビリンス」(2006)を経験しているから、このぐらいは大したことないそうだ。

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⬆︎本作に登場するこの劇場、実はトロントに実在する映画館で、トロント国際映画祭で、ここで本作が上演された。見ていた観客は不思議な感覚にとらわれたことだろう。

それにしても、7年がかりとは言え、デル・トロがこういう物語を温め、映画化しちゃうところはやはり才人だ。メキシコには監督三羽ガラスとして、アルフォンソ・クアロンアレハンドロ・イニャリトゥと、3人とも60歳前半で、3人ともアカデミー賞受賞監督!今後が楽しみなメキシコ人たち。

ちょっとキモいが、夢のある物語が好きな人にはおすすめの作品。

#20 画像はIMDbから。