ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ハッピーエンド」

180319 HAPPY END 108分 仏・独・墺合作 脚本・監督:ミヒャエル・ハネケ

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上はラストシーン付近の映像だが、画面がスマホ仕様になっている点に注意。つまり、誰かが、ここを撮影しているということだ。冒頭も、やはり縦長のスマホ動画でバスルームで寝支度の女性の姿を執拗に後ろから捉えているシーンがまずあって、それからタイトルが入るという懲りよう。

というわけで、スマホや、この子の父親のトマが不倫相手とこっそり卑猥な言葉でメールのやりとりしているのを知ってしまうという具合にSNSが重要な役割を果たしている。

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ちなみに孫のエヴが操作しているのはiPhone 7かな。そして・・・

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ハネケの作品だから、冒頭から相当構えて見ていないと分からなくなる。そうしていても、「はて、さっきのあのシーンは何を指していたんだろう」と見ている間も頻繁に???が。

現代で、舞台はカレーというところも抑えどころ。ここは中東難民が英国行きをスタンバイするところとして、一時注目を浴びた北フランスの海辺の町で、郊外には難民キャンプがある。当然、市内にも難民の姿が多数目撃される。

一家は地域では成功している部類のブルジョワで、創業者である家長、ジョルジュは85歳(演じるジャン=ルイ・トランティニャンは現在87歳。映画からも引退していたのだが、ハネケが撮るというので、出演を快諾したらしい。)で、とっくに引退し、実権は娘、アンヌ(イザベル・ユペール、彼女、ハネケとは3度目のコラボ)に移っている。これがなかなかのやりてなのだが、後継者になるはずの息子、ピエールにはまるで経営者としての才覚が欠けている。これが一家の目下の悩みの一つ。

加えて、アンヌの弟、トマ(マチュー・カソヴィッツ)も問題を抱えている。別れた前妻との間の一人娘、エヴ(ファンティーヌ・アルデュアン、この子がうまい!)が一緒に住むことになり、深刻な問題が持ち上がる。

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まあ、いわば仮面一家、表面的には装っているが一皮むけば、なんとドロドロの世界が広がっていることか、しかも互いにまったく相手を気遣うことどころか、まるで無関心であることをハネケは独特の映像構成で観客に訴える。

前作の「愛、アムール」(2012)(トランティニャン、ユペール共演)とちょっと共通する側面を持つのは、人間の生き方の問題より死生観かな。老醜をさらけ出しながら生き続ける辛さをどうして回避するかしか頭にない家長、ジョルジュをすっかり面変わりしたトランティニャンが好演。(それにしても、「男と女」、「暗殺の森」などのさっそうとした姿を知っている者には、ちょっと辛い!)⬇︎

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さらに2005年の「隠された記憶」でもただあるシーンを遠くから長回しで捉え、「さあて、分かるかな」とでも言うように、観客を試すような手法が、本作でも使われている。要注意だ。

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撮影風景、中央は監督のハネケ(75歳)。孫が着用しているTシャツには I❤️JAPANとある。ま、意味ないか。でも、気になった。

原題も邦題も同じだが、ハッピーエンドとはここでは逆説的に使用されているんだろう。誰にとっても、アンハッピー・エンドだ。

#23 画像はALLCINEMA on lineから。