ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」

180402 THE POSTワシントン・ポスト紙のこと)米 116分 製作・監督:スティーブン・スピルバーグ

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こういう作品を観ると、日本社会のアナクロニズムが大いに身につまされる。

堅忍不抜の精神で権力に立ち向かう勇気ある人々がいるアメリカは、やはり健全な国家と言えるのだろう。ただ、それだけに今の政権に失望する人々が多いのもまた事実。

これは半世紀近くも前の1971年に発覚したスキャンダル(負けることを知りつつベトナム戦争に突入し泥沼化させた)を報道するに至った一地方紙を扱った実話である。その結果が、そのままウォーターゲート事件に繋がる。ラスト・シーンは、まさにそのシーンだ。2月末に見たリアム・ニーソン主演の「ザ・シークレットマン」は、元CIA長官だったディープスロートと呼ばれた人物が明かした衝撃の事実を扱った作品だが、本作を見てから、そっちを見れば、より理解が深まったかも。

当時、矢面に立ったニクソンは、徹底的にワシントン・ポスト紙やその社主キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)に嫌がらせをし、圧力をかけようと部下に檄を飛ばす場面が終盤に出てくる。ホワイトハウス大統領執務室、後ろ姿でそれと分かるニクソンの声は本人の声にそっくりで驚く。

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主役のキャサリンは、政界にも親しく家族ぐるみの付き合いをする人物が多く、当時の国防長官、ロバート・マクナマラブルース・グリーンウッド)もその一人。「個人的に親しくても、書くときは書くわよ」と事前に仁義を切りにふらっとマクナマラ邸を訪れる。当然、「そんなことをしたら、どうなるか分かるか、ケイ?ニクソンは全精力を傾けて、おたくをつぶしにかかるぞ!」と反論される。彼女の決意は揺るがない。

ちなみに、グリーンウッドは前出の「ザ・シークレットマン」ではニューヨーク・タイムズの記者として出演していて、ディープスロートから真相を聞き出す役を演じたばかり。

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ペンタゴン・ペーパーズ掲載に踏み切るかどうか、輪転機が回る直前までキャサリン宅で反対派が「あなたは歴史ある我が社を潰すつもりか!社主でもそんな横暴は許されない!」と詰め寄るシーン。そして、最後に言い放つキャサリンのセリフが格好いいのだ。泣きそうになる。寝巻き姿の彼女、その後、「私、寝るわ」と一言。

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全員固唾を飲んで裁判の結果を待つ。「報道機関は国民に仕えるものであり、政権や政治家に仕えるものではない。」という判事の判決が素晴らしい共感を呼ぶ。

共演のトム・ハンクスワシントン・ポストの編集主幹を演じるが、現在61歳で、50歳の役だから、当然メイクはしているのだが、これが不自然。例のアカデミー賞を取った日本人にメイクをやらせておけばもうちょっとマシだったのに。

2年前に見た、ボストン・グローブ紙がカトリック神父の子供への性的虐待を記事にするかどうかで揉めまくった「スポットライト 世紀のスクープ」を思い出した。

この邦題はまあまあ。ただペンタゴン・ペーパーズだけでよかったのに!原題のザ・ポストだけでは、アメリカ人以外にはなんのことやら。

#26 画像はIMDbから。