ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「女は二度決断する」

180416 AUS DEM NICHTS  独 106分 脚本・監督:ファティ・アキン(44歳、ハンブルク生まれだが、トルコ系移民、「消えた声が、その名を呼ぶ」2014)

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この作品、ドイツが現在抱えている移民問題を正面から取り上げている。監督自身がトルコ系移民の2世ゆえ、世界に実情を訴える狙いもあったか。ネオナチの跋扈、トルコ系住民への攻撃が日常的になっているハンブルクが舞台。

冒頭、一見して房内と分かる場面。上下真っ白なスーツ姿、長髪を後ろで縛り、これ以上ないほどの典型的な鷲鼻、濃い眉、浅黒い肌と、何から何まで中東風のいかつい男が得意げに出所するところで、受刑者仲間から拍手と歓声に送られ意気揚々と出所。出た先にはこれまた純白のウェディングドレスの白人女性が待ち構えていて、いきなりの結婚式。

トルコ系の夫とドイツ人の妻、5歳の男の子という3人家族。夫は、かつて麻薬取引でムショ暮らし。その後、麻薬稼業とはすっぱり縁を切り、立派に更生し、今では街なかに法律事務所兼旅行代理店を構えている。

ある日、事務所の夫のもとに息子を預け、親しい友人と市内のハンマーム(トルコ式公衆浴場)で寛いでから事務所に戻ろうとすると付近は物々しい警戒。なんと事務所が爆破され、愛する家族が犠牲になる。ここで、初めてタイトルが出る。

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⬆︎被告側弁護人(左から二人目)を演じたヨハネス・クリッシュという俳優の憎々しいほどの迫力の演技には参った。この法廷シーンは息詰まるような緊迫感で見ていてハラハラドキドキ、身体がこわばる程見事だ。

間もなく犯人が逮捕され、裁判となるも、証拠不十分で無罪!!どうしても諦められない女が取った行動が予想を超える展開となる。

それにしても、一見して教養もありそうなドイツ人女性がよりによって、今では足を洗ったとは言え、どうしてこんな物騒なクルド人と結婚しようと思ったのか、その辺が端折っているから、ずーっと違和感がつきまとう。

家族を奪われ、一時は自殺未遂にまで追い込まれるほどの悲しみのどん底から、すこしずつ這い上がり、犯人を追い詰めるまでの鬼気迫る決断をする、極めて難しい役どころをダイアン・クリューガーが見事に演じる。特に、ギリシャの海岸にいる犯人側を突き止め、手製の爆薬を仕掛けようとするも、ギリギリで思いとどまる辺りの微妙な心の揺れを顔の表情、それも目だけで演じきる。カンヌ映画祭で主演女優賞を取るのは不思議ではない。

ダイアン・クリューガー出演作品で日本公開は20本ほどあるが、半分以上を見ている。別にとりわけ好きな女優でもないのだが。若い頃はもう少し繊細な印象を受けたが、今はもう典型的なドイツ人で、どこかいかつい、というか、ごつい印象に変わってきている。なぜか出演作はほとんどがフランス語か英語で、母国語での出演はこれが2本目というのも、珍事。元ダンナはフランス人俳優のギヨーム・カネ。(そう言えばドイツ人男優のダニエル・ブリュームも外国語作品の方が圧倒的に多い)

この映画、3章仕立てで、第1章は”家族、第2章、”正義”、そして第3章”海”という構成。それぞれ撮影手法を替えているという。第3章、ギリシャ編では、古い感じを出すために敢えて年代物のレンズで撮影したとか。また、過去の家族の動画はiPhone撮影らしい。

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⬆︎演技指導中のファティ・アキン監督。若い!

全編、徹底的に感情移入させれれてしまう作品。ところで、この邦題、二度の決断とは?二度目は明らかだが、最初の決断がどれを指すのか、判断が分かれるところだ。両手のリストカットをして浴槽に沈む寸前に弁護士からかかってきた電話に出る時か。犯人側を何が何でも極刑にしてやろうと考えた時か、それともそもそもあんな男と一緒になろうとした時か。

#29 画像はIMDbから。