ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「港町」

180505 日米合作 122分 製作・監督・撮影・編集:想田和弘、製作に名を連ねている柏木規与子は想田の妻。共にニューヨーク在住。姿は登場しないが、二人の声は入っている。

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瀬戸内海に面する岡山県の小さな漁村、牛窓(なんと長閑な名前ではないか!)が舞台。⬆︎わいちゃんと呼ばれる86歳の漁師が登場する。カメラは彼の漁についていき、網をしかけるところから、巻き上げて、一匹一匹網からはずすわいちゃんの姿を黙々と捉える。少し耳が遠いので、わいちゃんとのやりとりはスムーズには行かないのだが、問わず語りに、もうこの歳で漁に出ても、まったく割りが合わないとこぼすわいちゃん。

夜が明けて、漁協の競りの様子、そこから彼がとった魚が町の魚屋へ運ばれ、店の夫婦が手際よくさばいて商品にしていく様子、カメラはやりてのおカミさんが町へ軽トラで販売営業にも同行していき、町の人々の暮らしぶりを紹介していく。

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この監督が”観察映画”と称する、ナレーションなし、BGMなしのドキュメント手法を駆使して、平穏な日常を上手にモノクロ映像ですくい取っていく。昔からある日本の原風景ような世界が映し出されている。町に数多く住み着いた野良猫を町民が可愛がり、それを見にくる観光客が増えたという。

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⬆︎わいちゃんのお友達の一人、くみさん、実に饒舌で、しかも82歳とは思えぬ素早い身のこなし。それにしても随分しゃべるばあさんと、やや持て余し気味で、少々辟易もさせれられるが、これまで実は壮絶な人生を辿って来たことが、次第にわかって来て、この婆さんに対する見方が途中から変わっていく。

ラストは再びわいちゃんの船の上、今度は冒頭よりも時間的にかなり早く、まだ明るい海でのカメラとわいちゃんの会話がとぎれがちに進んでいき、やがて周辺が暮れなずんでいく。

そして、エンドロールの後に、初めてカラーになり、おだやかな海が映し出される。エンドロールの最後に、饒舌だったくみさんへの追悼という文字が出る。

#35 画像はALLCINEMA on lineから。