ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「モリのいる場所」

180528 99分 脚本・監督:沖田修一

f:id:grappatei:20180529120618j:plain

まあ、なんともほんわかした、癒される作品だ。

熊谷守一(1880-1977)が晩年過ごした練馬区の自宅での暮らしぶりを、淡々と描いた作品。1973-75頃の設定と思われるが、この頃だともう90歳を超えたいたことになる。両方の手に杖を持って、よろよろという動作ではあるが、その割に結構若々しい。

外出は一切せず(劇中では、30年、家から外に出たことがないと)、日がな一日、鬱蒼とした20坪ほどの草ぼうぼうの庭で、小動物、虫、鳥を観察しながら過ごすのが日常。たまに人が訪ねてくる程度。

f:id:grappatei:20180529123416j:plain

冒頭シーンは昭和天皇と思われる人物の顔を正面から捉えたまま10秒以上。しばらくして、後ろを振り向き「これは何歳の子供の作品ですか?」と侍従に尋ねるという塩梅。それほど、熊谷の晩年の作品は枯れているが、無駄を一切排除したモダンな抽象画という風情。

有象無象が家を訪ねてきては、勝手に食事したり酒を飲んだりするのが、守一は独り黙々、我関せずと過ごす。ただ、肝心なことにはきちんと対応していたことが描かれる。

隣地にマンション建設計画が持ち上がり、日が当たらなくなるからと当人たちはもちろん反対だが、美術愛好家たちも立て看板を周辺に立てて応戦。建設側の関係者が談判に来ることも事前に計算していて、自分はトイレに隠れ、奥さん(樹木希林)に対応させる。

一緒に訪ねてきていたマンションのオーナーがトイレに入ろうとして、守一と鉢合わせ。そこで息子が描いた下手くそな絵を見せにくると、言下に「下手です。上手は先が見えるからいけません。下手でいいのです。それも絵ですから」と超然として、相手をケムに巻く。

またある日、宮内庁から文化勲章叙勲を伝える電話が。すると、「そうなると、またいろんな人が来るだろう?それに袴とか穿いたりするのも面倒だし」と断ってしまう。

ま、こうしたエピソードには事欠かなかった、まさに仙人というような人物だったろう。

この監督が多分好きだったんだろうと思われるが、ドリフターズの話が出てきて、来客者同士で盛り上がり、最後に天井から大きなタライが大音響と共に落ちてきて、下にいた来客者がひっくり返るというシーン、要るのかなあ、こういうのは。

#41 画像はALLCINEMA on lineから