ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ゲティ家の身代金」

180530 ALL THE MONEY IN THE WORLD 米 133分 監督:リドリー・スコット

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1973年に起きた誘拐事件をベースにした実録もの。リドリー・スコットらしい作り込み方に十分共感する。

冒頭シーンはフェデリコ・フェッリーニの「甘い生活」へのオマージュであることは明白。モノクロで、雑踏するヴィア・ヴェネトを移動カメラで捉える。大型アメ車が走行しているのは、ちょっと雰囲気を損なうが。そこを後日誘拐される当の人物がうろつくシーン。

さて、実際の主人公である世界的な大富豪、ジャン=ポール・ゲティは1948年の中東石油で大儲けをする。

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⬆︎撮影はサウディでなくヨルダン。

この人物、稀代のドケチ野郎で、それを示すシーンが何度か登場する。それが物語の伏線にもなっている。夜の女が出没するカラカラ浴場付近をぶらつく孫の3世、女には引っかからないが、誘拐犯にまんまとワーゲンのヴァンに引きずり込まれて、目指すは南伊のポテンツァ郊外のアジト。要求金額は1,700万ドル(今の金額で20億円ぐらいかな)

大騒ぎとなり、さっそく1世の出番!むらがるメディアに対して、一言「びた一文も!」。これにはさすがにあっけに取られる記者たち。孫が14人もいるから、前例は作りたくないというのを理由にはしているが・・・。

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⬆︎囚われの身となった3世。演じているのはチャーリー・プラマーと偶然おじいちゃん役のクリストファーとは同姓だが、姻戚関係はないそうだ。

既に2世とは離婚している3世の母親、アビゲイルミシェル・ウィリアムズが好演)が、結局この後、犯人側とほぼ単独で交渉することに。途中から、1世の警備担当、元CIAのチェイスマーク・ウォルバーグ、この役のためにかなり減量)が交渉に加わるが、1世、2世、ついでにローマ警察もクソの役にも立たない。本当にイタリアの警察ほど当てにならないものはこの世でも少ないかも。

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長期化に嫌気がさした犯人側、なんとマフィアに人質を売り飛ばしてしまうからすごい話だ。マフィアらしい手口は、人質の耳を切り落として(このシーンは正視に耐えられない)、郵送してくる。これにはさすがの1世も動かざるを得ないが、400万ドルまで値切り、ほとんどは節税対策として、そして一部はアビゲイルに貸付けるという、なんともあざとい手法を案出するから驚く。

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耳を切り落とされた3世と、犯人の中ではかなり同情的だったチンクワンタという役を、いつもダンディーな役回りのロマン・デュリスが演じている。うまくはまっている。

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リドリー・スコット監督とクリストファー・プラマー(89)。元々はケビン・スペイシー(58)が演じることになっていて、撮影もあらかた済んでしまっていたのに、セクハラでひっかかり、急遽プラマーにお鉢が回ったといういわくつきの作品。どんな演技をしたのか見たいものだが、まあ、プラマーで正解だったのでは?

実話と最も異なる点は、映画では、事件解決と同時に1世が亡くなるのだが、実際は3年ほど生存したらしい。

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1世がなくなり、財産整理に没頭するアビゲイル。1世が収集した古代ローマの彫刻群に囲まれているが、そこに亡霊のごとく1世の黒大理石の胸像が現れギョッとするところで、ジ・エンド。

#43 画像はIMDbから