ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2018 東京ニューシティ管弦楽団 センター争奪、灼熱のアリアバトル」

 

180810 なかなか面白い企画だし、お値段も手頃なのだが、客の入りはイマイチ。この猛暑の時期、あまり人は移動したくないのだろう。こちらも余りの暑さに、初めて自宅近くのバス停から1回乗り換えではあるが、会場近くのラゾナ川崎まで行ってみた。JRを使ういつものルートとほぼ同じ所要時間であり、しかも最後の区間は東京でないにもかかわらず、手元のシルバーパスが使えるのはありがたい!

出演者で、一番気になっていたのが土屋優子!さいきん評判が上がってきているようで、初めて生で聞く機会が訪れた。

前半、全員の演唱を聴いた上で、聴衆が投票し、1位者が最後の「乾杯の歌」をセンターで歌えるという、それだけのことなのだが、進行の朝岡 聡の巧みな話術で、会場を大いに盛り上げた。

出演者の売り込みのチラシがプログラムに挟み込まれていた。(順不同)

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そして演目がこちら。


指揮:曽我大介
ソプラノ:高橋 維
ソプラノ:土屋優子
メゾ・ソプラノ:野田千恵子
メゾ・ソプラノ:高野百合絵
テノール:芹澤佳通
バリトン:吉川健一
司会:朝岡 聡
ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲 

【前半アリアバトルの歌唱順は
 プレトーク中の抽選で決まります】
ヴェルディ
 歌劇「椿姫」から“ああ、そはかの人か~花から花へ”(高橋)
プッチーニ
 歌劇「蝶々夫人」から “ある晴れた日に”(土屋)
ロッシーニ
 歌劇「タンクレーディ」から“この胸の高鳴りに”(野田)
ロッシーニ
 歌劇「セヴィリアの理髪師」から “今の歌声は”(高野)
プッチーニ
 歌劇「トゥーランドット」から“誰も寝てはならぬ”(芹澤)
ジョルダーノ:
 歌劇「アンドレア・シェニエ」から“祖国を裏切る者”(吉川)

ロッシーニ
 歌劇「セビリアの理髪師」序曲
ロッシーニ
 歌劇「セビリアの理髪師 」から
 ロジーナとフィガロの二重唱
 “それじゃ私だわ・・・嘘じゃないわね” (高野/吉川)
プッチーニ
 歌劇「ラ・ボエーム」からロドルフォとミミの二重唱
 “おお麗しの乙女よ” (芹澤/土屋)
マスカーニ:
 歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
プッチーニ
 歌劇「蝶々夫人蝶々夫人とスズキの二重唱
 "桜の枝を揺さぶって" (土屋/野田)
ドニゼッティ
 歌劇「ドン・パスクワーレ」から
 ノリーナとドン・パスクワーレ の二重唱
 “お嬢様、そんなに急いでどこへ” (高橋/吉川)
ヴェルディ:歌劇「リゴレット」序曲
ヴェルディ:歌劇「リゴレット」 第三幕 四重唱
 ”美しい恋の乙女よ” (高橋/野田/芹澤/吉川)

エストロ曽我はこんなことを語っている。

もちろん、「争奪」「バトル」とはいっても、「ガチの争い」ではない。
「どちらかといえばお楽しみですね。出演者は私も共演したことのある、若手ながら指折りの実力を持った歌手のみなさんです。みなさん楽しんで参加してくださっているようです。意気込みなどは、当日プログラムとともに配付される『選挙公報』をご覧ください。
 出演者全員が声のタイプのまったく異なる、カラーの違う歌手のみなさんです。それぞれの希望曲数曲の中から選曲して、結果として、コンサートとして聴いてもとてもバランスのよいプログラムになっていますので、人間の声のさまざまな魅力、イタリア・オペラの世界の奥深さを楽しんでいただけると思います」

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この人、ひょうきんで親しみやすい方らしく、進行とのやりとりの間合いの取り方もうまいし、「乾杯の歌」では自らテノール(?)の喉も披露して会場から盛んな拍手が。

結局、投票では私も投じた土屋優子が1位ということで、優勝者の⬇︎たすきを掛け、堂々、真ん中で歌った。

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アンコールには、自分の所属合唱団も昨年の定演で歌った"TIME TO SAY GOOD-BYE"、これはまた一段と素晴らしかった。

確かに同じ声部でも、種類が何層にも別れるので、そこが聞く側の興味を惹きつけるし、歌う側もそれを意識して慎重の上にも慎重に選曲しないと、「この人、こんなはずじゃないんだけどなぁ・・・」などということが往々にしてあるみたい。

多分、一位はこの人ではないかと思っていたのがソプラノの高橋 維。人気・実力ともに急上昇中。前半、つまり投票対象の選曲は「椿姫」から1幕のアリア。無難に歌い、最後のEsも余裕で出し切って、やんやの喝采とブラーヴァ!は、まあ想定内。でも、ヴィオレッタは、多分、もう少しスピント系の色合いが求められるような気がしてならない。もっと彼女の本来の持ち味が出せる曲を選んで欲しかった。もしかして、イタリアものよりドイツものの方が合っているのかも。

その点、土屋優子のマダム・バタフライは、ほぼぴったりとはまっていたと思う。どちらかと言うと、沈み込むような高音というとヘンかも知れないが、重みのある高音に特徴を感じた。

高野百合絵、学院生の現役というから驚く。舞台姿が堂々としていて、すでにキャリアが積んでいるように見える。Una Voce、アジリタも軽快でとてもよかった!最後の最後に、チラッと「アレ?」という感じがしたのは自分だけかな。微かにズレのようなものが。

野田千恵子、中音の響きに期待したのだが・・・これも多少選曲に問題あったのかも。でも、最後に歌ったリゴレットの四重唱でのマッダレーナでは息を吹き返したようだった。それにしても、かなり小柄だから、オペラ本公演の舞台に乗るには、申し訳ないけど、ちょっとばかりしんどいかも知れない。

芹澤佳通、大器の風格だが、まだまだ原石だ。ちょっとこもった、というかソフトなテノールで、これは磨き甲斐がある。ネスドルは、やや期待はずれ。でも、いいものは間違いなく持っている。

吉川健一、10年ほど前からもうなんども聞かせてもらっていて、実力のほどもよく知っている。なんでも器用にこなすタイプだろう。人物も明るく社交的で、口八丁手八丁という印象。ただ、今日の演目は、どうだろう。この人に合っていたのだろうか。「アンドレア・シェニエ」のこの役は、この人のような明るい感じのバリトンでは、訴えきれない気がする。(なんたって、この曲、あのエットレ・バスティアニーニで聴いちゃっているから、それも生で)もっと荒々しい、ごっつい声で歌ってこそではないかな。

つい調子に乗ってえらそうに書いてしまったが、さすがマエストロが厳選した人たちだ。ヴェテランから新人まで一堂に会しての歌合戦、たっぷり楽しませもらいました。

#44 文中敬称略