180911 原題はアラビア語につき、表記不能。英語では THE INSULT(侮辱)レバノンとフランスの合作、113分 脚本(共)・監督:ジアド・ドゥエイリ、製作、撮影、音楽など他のキャストは名前からして、ほぼフランス人、イタリア人の混成チーム。出演者は全員、レバノン人のようだ。
あそこで一言謝罪していれば、”事件”は起こらなかった。ほんの些細なことが発火点になり、やがて国をあげての騒動にまで発展、およそ日本を始め、”普通”の国では起こり得ない、仰天の顛末。
ベイルートに住む自動車修理工、カトリック系レバノン人のトニーは、ある日、この家の前で工事をしているイスラム系パレスティナ難民の工事主任ヤーセルと、ちょっとしたことがきっかけで口論となる。まさか、その後、大事件に発展するとも知らず。
⬆︎大統領官邸を去る二人。この後、トニーの車が先に走り出す。一方ヤーセルの方はエンジンがかからない。一旦は走り去るも、そこは自動車修理工のトニー、見かねて戻ってくると、あっという間に直してしまう。この時の二人の表情に、さわやかな風が吹き抜ける。いい場面だ。
実は、両者ともに、暗く重い歴史を背負っており、きっかけとなった口論、一見些細なことに見えることが、二人には到底忍び難い重要なことだったのだ。ついには裁判となり一気に世間の耳目が集中、果てはなんと大統領までが介入し、両陣営入り乱れての騒乱にまで。
⬆︎ヤーセルに無罪判決が出た直後、妻と手を取り合って束の間、感慨に浸る。対決してきたトニーに送る視線がすべてを物語る。
レバノン、あるいはパレスティナ、イスラエルなど周辺国を含め、この辺りの歴史的な流れをある程度理解しておかないと、この話にはなかなかついて行けない。それでも、巧みな脚本に導かれて、余り中東問題に詳しくない者でも、一定の理解ができるようにしてあるから素晴らしい!
レバノン映画を見たのは初めてである。2008年に見た「戦場でワルツを」はレバノン内戦を克明に描いた衝撃の作品であったが、アニメである。⬇︎
本作は2017年米国アカデミーで最優秀外国映画賞にノミネートされ、ヤーセルを演じたカメル・エルバシャはヴェネツィア国際映画祭最優秀男優賞を受賞するという、同国では記念碑的な作品になった。(トニーを演じたアデル・カラムはもっと好演したと思うのだが)
一度だけベイルートに行ったことがある。日本の建築家を連れての添乗業務。1970年のことだ。東洋のパリと言われたベイルートは平穏そのものだった。それから5年後に凄まじい内戦が勃発するとはつゆ知らず。
いやぁ、久しぶりに素晴らしい作品に出会えた。