ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「よりよき人生」

181005 UNE VIE MEILLEURE (邦題どおり)仏 111分 2013年東京国際映画祭参加作品 脚本(共)・監督:セドリック・カーン(「大人の恋の測り方」2016)

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自分のふとした感情に流され、才能はあるのに、ふがいなさから、掴みかけた幸運を手放すばかりか、せっかく芽生えかけた愛情まで失いそうになる。それを食い止めたのは血の繋がりはないが、自分に懐いた9歳の男の子。でも、この子の母親は今や6,000kmも離れたカナダに。それでも、雪の上にスノーモービルの軌跡を描くエンディングは、将来の希望を抱かされるものだった。

映画は、9歳の男の子を持つレバノン人のシングルマザーと、料理の腕はあるのに、場当たり的で、衝動的なフランス人男の出会いから始まる。

パリ9区、パレ・ロワイヤル広場に面するレストランにコックとして職探しにきたヤン(ギヨーム・カネ)、今は間に合っているからと体良く追い出され、悪態をついていると、休憩で出て来たホールスタッフのナディアと目が合う。一言二言交わしただけで、仕事の後、いっぱいやらないかと持ちかけるヤン、「午前3時だけど?」、「別に構わないさ」と受けるヤン。呆れながらも承諾するナディア。

こうして二人の関係が始まるのだが、自分のレストランを持ちたいという夢だけで、経済的な裏付けもなく、突っ走るヤン。ハラハラしながらもついていくことにするナディア。果たせるかな、はやばやと計画は頓挫。莫大な借金だけが残る。事態解決に動いたナディアの作戦とは。

優しい目つきのギヨーム・カネ(独女優、ダイアン・クリューガーとは、共演した「戦場のアリア」がきっかけで結婚するが、すぐ別れた)、調子はいいが中身のないような役柄にはぴったり。いっぽうのナディア役のレイラ・ベクティは、見るからにアラブ系だが、フランス生まれのフランス人。目の演技が素晴らしい!

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この子役がうまい!万引きした靴を前にして、ヤンから返してこいと。

映画としての出来栄えは悪くない。無駄も無理もない脚本もよかったし、展開が分かりやすかった。ただ、ヤンがどの程度の料理人だったかが描かれていないので、若干リアリティに欠けたと思われても仕方ない。自分のことをシェフ、シェフと言い続けて、ナディアの失笑を買っていた。料理する場面もちょっとあるにはあったが。

ヤン自身も里親に育てられたという過去を持つことが終盤の一言で明かされる。男の子に親並みか、それ以上の愛情をもって接したのも、そのあたりの事情が絡んでいたのだろう。いろんなものを失ったヤンだったが、手に入れた家族愛の方がはるかに優っていたようだ。まあまあ佳作だろう。

蛇足:フランス語で罵声の代表格はメルドゥなのだが、本作ではやたらにシットが使われていた。これは英語なので、違和感、大あり。最近はもっぱら外来語を使うようになったのかしらん。これもインターネットの影響?

#75 画像はIMDb、およびALLCINEMA on lineから