181019
全曲、聞かせてもらえるわけではないが、結構貴重な体験ができた。
ダン・エッティンガーはイスラエル出身の気鋭の指揮者。エドゥナ・プロフニクも同国出身のメゾ。大柄で、表現豊かな唱法は強い印象を与える。
Edna Prochnik 175cmはありそう。
ヴェーゼンドンク歌曲集は多分、生で聴くのは初めて。ヴェーゼンドンクとは人の名前。解説によると、チューリッヒに亡命中のワグナーが知り合った富豪、ヴェーゼンドンク夫妻との交流が始まり、ヴェーゼンドンク夫人、マチルデといつしか恋仲に。人の好いヴェーゼンドンクは自宅改装時に、隣家を買い取り、そこにワグナーを住まわせることに。二人の関係を知ってか知らずか、ともかくこれがきっかけでマチルデとワグナーは一層親密に。ま、当然の帰結。その結果、うまれたのがこの曲というわけ。
マチルデも詩作の才に恵まれていたのだろう、これをよろこんだワグナーが曲をつけ、自分の作品中でも最高の、という折り紙つき。作曲家自身がそういうのは、マチルデを思ってのことだろうから多少割り引いて考える必要がありそう。
「天使」、「止まれ」、「温室にて」、「悩み」、「夢」という構成で、これをマチルデの誕生日に贈ったとされている。本来はピアノ伴奏で演奏されることになっていたのだが、後年、指揮者のフェリックス・モットルが管弦楽向けに編曲し、今日ではこのヴァージョンで演奏されるのが一般的とのこと。
若きワグナーが、当時作曲中だった「ジークフリート」をほっぽり出してまで、作曲に入れ込んだほどで、熱に浮かされたような、熱情ほとばしるパッセージが登場する。
ワグナーほどの艶福家は珍しい。それも女性だけでなく、こうした大富豪や、のちには一国の国王からも寵愛を受けるという破格の艶福家。それも、恵まれた才能ゆえのことであって、その点だけとっても、数多いる作曲家の中でも稀有な存在。
その後、アンコールとして2曲、リハあり。「献呈」(リヒァルト・シュトラウス)、「楽に寄す」(シューベルト作曲、An die Musik 中学で音楽授業で歌わされたので、よく覚えている)
プロフニクは、公開リハが珍しかったのか、聴衆の方に向かって、会釈したり手を振ったりする姿が印象的だった。
それにしても、楽団員たるもの、マエストロの指示を的確に理解する必要があり、基本、英語力は最低限必要だろう。どんな指示をマエストロが出しているか、客席にいると聞こえないが、ほぼ全員が笑ったり、頷いたりしていたから、きちんと理解できているのだろう。
一方、楽しみにしていた「幻想」だが、長いこともあり、2楽章までしか聞かせてもらえなかったのは残念至極。ハープが舞台前面、ファースト・バイオリンと右側のヴィオラの前に、それぞれ2台ずつ配置され、演奏されたのには少々驚く。
#65 文中敬称略