ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ナチス第三の男」

190220 THE MAN WITH THE IRON HEART 英・仏・ベルギー合作 120分 監督:セドリック・ヒメネス(42歳、フランス人)

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あまりにもよく知られているこの暗殺未遂事件、なんと5回も映画化されているとか。2016年公開の前作「ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦」(ANTHROPOID)は見ている。その方が出来がいいのは知っていたが、敢えて見に行った。

上官であるヒムラーに引き立てられ、重用されたナチス親衛隊大将、ラインハルト・ハイドリッヒ(ジェイソン・クラーク)は、ユダヤ人抹殺(ホロコースト)の実質的立案・実行者として、英国亡命チェコ人に狙われることに。

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なんと弾が出ない!

1942年5月27日(太平洋ではミッドウエー海戦直前)、いつも通りベンツのオープンカーでプラハ市内走行中を短機関銃で狙われたのだが、なんと・・・!至近距離だから弾が出ていれば即死は免れなかったところだが・・・。それでも、その後、投げ込まれた手榴弾で深手を負い、1週間後に死亡。

さあ、そこからのナチス側のリベンジが・・・。十分予想されたことだったが、容赦なき余りの過酷さには戦慄する。それだけの犠牲を払ってまで、このナチス最高幹部の一人を暗殺する意義があったのか、疑わしい。

前半はハイドリッヒがいかにしてナチスの一員となり権力を手中にしていくかを描くのだが、どうでもいいような場面が多く、退屈する。後半は一転テンポがよくなり、緊迫の場面や、最後の銃撃戦など、丁寧に描くことに成功している。

主役のジェイソン・クラークは存在感の薄い俳優である。本物のハイドリッヒとは風貌に違いがありすぎるのは、ともかく、演技も単調だし、さほどのインパクトが感じられない。その点、前作のハイドリッヒ役の方がうまく役柄にはまっていた。

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ハイドリッヒ本人。なんとも穏やかな表情で残忍さをうかがい知ることはできない。

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久しぶりにポーランド系オーストラリア人のミア・ワシコウフスカがちょい役で出ている。ちょっともったいない使い方である。

主人公の妻役には生粋のイギリス人、理知的な美貌で知られるロザムンド・パイク。この作品もできればドイツ語で撮ってほしいところだが、米英仏ベルギー合作で、出演者が英米豪人では、まあ無理か。フェンシングのシーンだけは、英独仏語が入り混じる超妙さ。

その点、「ハイドリヒを撃て」は、チェコも合作に参加している関係か、各国語を使い分けるなど、よほどリアリティーが感じられた。言語的効果は、はやり無視できないと思う。撮影場所は2作品ともプラハ市内が中心。

面白いことに、本作の公開時期は当初「ハイドリヒを撃て!」と同じ年だったらしいが、内容が内容だけに、あえて公開時期を1年以上遅らせたということだ。(日本では、2年以上)

ところで、元々の原題はHHhHと風変わりなもの。「ヒムラーの頭脳はハイドリッヒと呼ばれる」という意味のドイツ語の頭文字を並べた、ゲシュタポが使用した隠語。これじゃ、しかし、なんのことか一般のドイツ人にも分からないだろう。

ということで、上記の原題にはなったが、「鉄の心臓を持った男」よりこの邦題の方が優れている。

#8 画像はIMDbから