ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「新聞記者」

190709 原作:望月衣塑子、監督:藤井道人

f:id:grappatei:20190709203329j:plain

東京新聞の記者、望月衣塑子は、官房長官に対する容赦ない質問を浴びせ、記者会見では内閣府からすっかり嫌われ者となり、その後の記者会見でも執拗に質問する彼女に会見を仕切る進行係官が散々嫌がらせをしたことは結構詳しく報道されていたから、記憶に新しい。

その彼女がノンフィクションをベースにしてフィクションを出版、それをベースにして映画化したもの。フィクションとは言え、すぐにそれと分かるような、例えば、森友・加計学園事件、元TBS記者による伊藤詩織準強姦事件、前川喜平などを思わせる話が次々に登場するから、まことにタイムリーで、見る側からすれば、結構面白い。

同じく新聞記者だった父親が、ある事件をすっぱ抜いたが、誤報扱いとなり、自殺に追い込まれた辛い過去を持つ記者、吉岡エリカ(シム・ウンギョン)が、政府が画策している医療系大学の新設の裏に隠された陰謀を暴こうと動き出す。

一方、内閣府の若きエリート、杉原(松坂桃李)は、元上司だった神崎が庁舎ビルから飛び降り自殺したことから、自分の所属する部署で得体の知れないなにかが蠢いていることを感じ、自らの将来を犠牲にする覚悟でその核心に迫ろうとする。

まるで父親の恨みを晴らすがごとき厳しい対決姿勢を示す若手新聞記者、そして、第1子が生まれて、これから家庭を築こうとする若きエリート官僚が、同じ目標に向かって交錯する緊迫感がたまらない。思わせぶりなラストシーンが気になるところだ。

吉岡を演じたシム・ウンギョンが魅力たっぷりの演技を見せる。日本語は実際にはカタコトらしいが、映画の中では、日本人と区別がつかないほどうまくしゃべっている。ぴたっと前を見据える黒い瞳に引き込まれる。

対する松坂桃李だが、演技は悪くないのだろうが、いやに甘っちょろいマスクがどうもこういう役には合わないように、自分には思えた。それより、彼の上司役の田中哲司が渋い演技を見せ、こちらの方が印象に残る。

いささかリアリティーに欠ける(東京新聞を東都新聞にしているのはいいとして、毎朝新聞と出しておきながら、セリフでは、朝日、読売、毎日と堂々としゃべってみたり)描写やご都合主義と取られそうな場面もあるにはあったが、こういう作品を今、世に問うた意義は認めざるを得ない気がする。平日昼間の館内はほぼ満員。ただ若い人の姿が少なかった(勤務中だから当然だけど)のが、少々残念。

意図的だろうが全体に彩度を下げているのはいいとして、内閣府のオフィス内の暗さを一体いかがなものだろうか。あんなに暗くして仕事、できるの?もちろん監督にはそれなりの意図があったろうことは想像できるが。ついでに、冒頭のシーンはハンドカメラを使って、緊迫感を出そうとしたのだろうが、画面がかなり激しく動くため、気分が悪くなった。緊迫感もほどほどにして欲しい。

たまたま7月10日、朝日の朝刊にハンセン病家族訴訟問題で政府が控訴せずと前日、トップで報じたのは誤報だったことを詫びる記事があった。そこには複数の部門で、かなり綿密に関係者に取材した結果、朝日としては相当自信を持っていたのだが、首相の最終的政治判断までは読みきれなかったようだ。謝罪の言葉に無念さが滲む。

#41 画像はALLCINEMA on lineから