ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

オペラ・ブーフ「エトワール(星占い)」@新国立劇場 中劇場

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10年前の本邦初演時のポスターと同じデザイン

本邦初演はちょうど10年前となる2009年10月で、会場は我が家近くのアプリコ大ホール。当時、すでに応援していた江口二美が出演ゆえ、もちろん見に行っている。▶️(その時の記事

ウィキペディアによれば、世界初演は1877年、パリのブッフ・パリジャン座(後述)である。エマニュエル・シャブリエ(1841-94)が36歳の時の作品。この人、前半生がサラリーマンで、作曲期間が14年と短ったため、狂詩曲やとくにピアノ曲は多数作っているがオペラについては、喜歌劇3本、歌劇1本と寡作である。セザンヌや、モネ、マネと親交があったというのが興味深い。それゆえ、印象派絵画的な色彩の作品が少なくないと表する批評家も。そういう風に聞けば本作にもその香りが若干しないでもない。

10年前の舞台は、実はあまり覚えていないのだが、同じ演出家とは思えないほどの違いを感じた。どちらがどうということではない。歌は原語(仏語)、それ以外は日本語であるのは前回同様で、この方式だと、歌にはオリジナルのよさを感じつつ、それ以外は日本語での自由なプロットを用意できるという利点がある。今回も随所にパロディーや隠喩的表現を取り入れて、楽しい舞台に盛り上げていた。

セットはなにやら童話風の可愛らしいもので、同じものではないが、前回のブログ記事にある写真を見る限り、似たようなものだったようだ。割に簡単なセットで、3幕とも同じものを使用。

前奏は6分ほどだが、木管を主体にした軽快なメロディーでこれから始まる楽しい舞台を予告している。これは全編を通してだが、木管とホルンの出番がすこぶる多く、その点はきわめて特徴的である。

青年(今回もソプラノ)ラズロと、最後に結ばれる王女のラウラを軸に王様のウーフ1世や側近のシロコが絡んで進行していく。ごく単純な物語で、この辺は喜歌劇のいいところであり、楽しい部分と言っていいだろう。

ラズロの醍醐園佳、見目麗しくタッパもあり、まさに本役にぴったりのソプラノで、歌唱もしっかりしていて、申し分ない。ラウラ姫の江口二美は、このブログには最多登場なので、今更付け加えることはない。醍醐と江口の声質が実はかなり似ていて、わずかにヴィヴラートだけが異なるというほどで、二重唱の相性は完璧である。

王様役の青栁素晴は、かなりひょうきんな王様という設定で、全編、「ホッホッホ!」という奇声を発し続ける。ややアイゼンシュタイン風で、衣装もどこか共通しており、こういう役柄は青栁が最も得意とするものになっているような気がする。テノールだが、下の声がかなりバリトンにも通じるという、今の日本では得難いテノールの一人だろう。

それにしてもフランスでもあまり上演されることのないオペラに取り組むオペラプロデュースという団体は大したものである。これからもこうした目立たないが傑出する作品の上演をぜひとも続けて行って欲しいと、オペラファンとしては願わずにいられない。

この中劇場だが、響きのいいホールだが、気に入らないのは、客席スペースの割に前後を結ぶ通路が2本しかないから、中の方に座ったら悲劇だ。着席客を掻き分け掻き分け移動しなければならず、えらいことになる。必ず通路側の席か、最前列に陣取るしかない。先日行った築地の映画館、東劇ほど足回りの空間を広く取っていれば、問題ないのだが、やはり計算上そうは行かなかったらしい。

蛇足ながら、前出のブッフ・パリジャン座だが、何年かまえにパリへ旅行した際、宿泊したホテルの隣に今でも存在する。ジャック・オッフェンバックの「天国と地獄」などもここで上演されたことのある名門劇場の一つだ。偶然隣に宿を取ったまでで、当時、この劇場がそれほど由緒あるものとは気づかなかったのが我ながら情けない。

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ブッフ・パリジャン座正面

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右側に見えるのがホテル・アスコット。

#60(文中敬称略)