ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「プライヴェート・ウォー」

190018 A PRIVATE WAR 110分 英米合作  製作(共)・監督:マシュー・ハイネマン(「ラッカは静かに虐殺されている」2017)

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実話に基づいた作品。生半可なジャーナリスト魂なんかではない。ジャーナリストとして、本当の本当に迫りたいという気持ちがあるのは当然として、どうしてここまで強い意志と勇気を持てるのか。実際に起きている事実を絶対に世界に知らしめようという強い信念を、それこそ死ぬまで捨てなかった実在の女流新聞記者、マリー・コルヴィンを戦場に追った迫真の作品。

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British Press Awardで、優秀外国人記者賞を受賞した。

主人公を演じるのは英国人のロザムンド・パイク、現在37歳だが、20代前半からテレビ、映画には結構出ている。「ゴーン・ガール」で一気に人気が出たが、それまでは、割にいいとこのお嬢さん役が多かった。そんな雰囲気の女優だから無理もない。ところが本作では一転、いつ死んでもおかしくない戦場、しかも最前線での取材を敢行する役だから180度転換と言ってもおかしくない。

本作の製作に名を連ねているシャーリーズ・セロンが同じような軌跡で、「モンスター」(2003)で10kgも増量い、殺人犯役で見事アカデミー主演女優賞を取っているが、何かそれを感じさせるような今回の役どころと言っていい。セロンさん、3年前の「ワイルド・スピード」を最後に、最近では単なる出演者だけでは物足らなくなったらしく、製作者、製作総指揮者としての活躍が目立つ。横道に逸れた。

このマリー・コルヴィンだが、昨年公開のフランス映画「バハールの涙」にも登場している。別の名前にしてあるが、夫や息子をISに奪われたクルド人女性戦士たちに同行取材する隻眼の女性ジャーナリストとして登場していた。

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マリー・コルヴィン本人

彼女は2012年、シリアのホムズでの取材中に爆死する(享年56)のだが、そこから11年遡ったところから話が始まる。取材先は危険度がすこぶる高い地域ばかり。南ティモールスリランカアフガニスタンリビア、シリア、etc.

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リビアではカダフィ大佐と単独インタビュー。厳しい質問を浴びせるが、大佐からはよほど気に入られていたらしく、嫌な顔一つせずに応じる。

ザ・サンデー・タイムズの特派員の資格で戦地に入るが、上司が散々止めても、逆に意気地なしと上司をなじり、どんどん奥地へとひたすら突き進んで行き、あたかも死地を求めているような姿に慄然とするばかり。片目を失ってからはそのPTSDに悩まされ大量飲酒やチェイン・スモーキング、あるいは愛人とのセックスに紛らわしていた姿が描かれる。これがあの上品なパイクスかと目を疑いたくなるほど。生粋の英国人だが演じるのはバリバリのアメリカ人ゆえ、米語訛りを強調しているが、なにかの拍子にブリティッシュが顔をのぞかせるのがご愛嬌。

このタイトルはもちろん彼女自身の戦いという意味だろう。原題にはA PRIVATE WARと不定冠詞が付いている。

コルヴィンを見ていると、ケイト・ブランシェット主演の「ヴェロニカ・ゲリン」(2003)を思い出さずはいられない。これも、アイルランドでの麻薬撲滅対策の前線で取材を続ける女流記者が、周囲が止めるのも構わず、真実を伝えようと必死になり、最後は凶弾に倒れるまでを描いた作品。

#56 画像はIMDbから。