ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「蜜蜂と遠雷」

191008 有名小説の映画化。ピアニストが国際コンクールで勝ち抜いて行く話だから、映像にするのがすこぶる困難と言われていたが、かなり巧く映画作品に仕上がっている。原作を読んでいないので、下手な論評は控えないと。118分 脚本・編集・監督:石川 慶

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天才たちが国際コンクールで勝ち上がっていくドラマだが、それぞれの天才ぶりにはさまざまなバックグラウンドがあり、人知れぬ悩みも秘密も隠されていることが次第に分かってくる。

幼い頃から母親とピアノを通して会話していたような栄伝亜夜(松岡茉優)、ひらめきのテクニックは文字通り尋常ではない。早すぎるデビューは彼女に何をもたらしたか。

彼女の幼馴染で、彼女の母親に初期の手ほどきを受け、のち、名門ジュリアードに行き、本選の大本命、マサル森崎ウィン)。少々、神経質なところがあるが、将来はコンポーザー・ピアニストを目指す本格派。

今は亡き巨匠に手ほどきを受けた最年少の奇才、風間 塵(鈴鹿央士)、ピアノなしでひたすら木製キーボードを叩いて、研鑽を重ねる。父親は養蜂家という家柄。

ただ一人、年齢制限ぎりぎりで本選優勝を目指す社会人高島明石(松坂桃李)、妻子を養いながらの挑戦で、他の3人に比べれば、やや普通の人という印象。

ほぼ予想できる展開で、最終順位が決まり、そこには意外性はまったく。唯一ホッとするのは社会人、高島が特別賞を受賞したこと。天才には天才なりの結果が、そうでない者にもそれなりのリウォードが用意されていることに一安心。

本選直前に練習場所をやっと探し当て、後から追いかけてきた風間と煌々たる月を見上げながら、亜夜が連弾で次々に”月”にまつわる名曲を弾いていくシーンが素晴らしい!

本作で最も関心を引いたのは、やはり演奏シーン、仕掛けは分かっているのだが、よほど出演者たちも特訓を積んだに違いないと思わせる。C.G.も使っているのは分かっているが、それでもぐいぐい引き込まれる石川の技の切れ味をたっぷり堪能。中でも紅一点の松岡茉優が素晴らしい演技を見せる。

エストロとして登場する鹿賀丈二も、ミュージカルを多数こなしているだけあって、いささかも違和感のない指揮ぶりで、存在感もたっぷり。松坂桃李もひさしぶりに映画館で見たが、演技にかなりの進化の跡が。

このタイトルだが、蜜蜂とは?遠雷とは?いずれもなにかのアレゴリーであるのは間違いなさそうだが・・・。見た人、それぞれが勝手に解釈すれはいいことかも。

#62 画像はALLCINEMA on lineから