ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ホテル・ムンバイ」

191113 原題もHOTER MUMBAI 脚本(共)・監督:アンソニー・マラス(アデレイド出身、年齢不詳)

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2008/11/26、ムンバイで実際に起きたテロ事件を扱った作品。10年前とは言え、まったくこの凄惨な事件を覚えていないとはどういう訳か。重装備とは言え、たった10人で170人以上を射殺、230人以上を負傷させたという大テロ事件であるのだから、当然日本でも詳しく報道されたと思うのだが。

市内の5ヶ所、ホテル、病院、駅、観光名所などがターゲットになった。製作にあたり、多数の生存者から数十時間に及ぶ面談でホテル内外での詳しい様子、また一人だけ生き残ったテロリストからも攻撃側の様子が明らかになり、脚本が練られたようだ。

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実際にはゴムボートでなく、盗んだ漁船を使ったらしいが、テロリストは海から上陸した。

上陸後はタクシーに分乗、事前に練られたプランに従って、市内各所に分散し、攻撃を開始。レストランで襲われた客たちは一斉に市内随一の豪華ホテル、タジ・マハル・パレス・ホテルに逃げ込む。直後にここが最大のターゲットになるとも知らず。

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門番は逃げ込もうとする群衆を制しようとするが、支配人がドアを解放。

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ベビーシッターを伴ったアメリカ人親子3人、暖かく出迎えられ、上階のスィートへ。

数分後、ここは血だらけの修羅場と化すのだが、今は静かで穏やかな時間が過ぎて行く。

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その時刻、厨房では宴会準備に追われている。全員に最終確認をするシェフのオベロイ

中央に立つアルジュン(デヴ・パテル)は、この日職場で履く靴が出がけにリュックから滑り落ち、サンダル姿で点呼を受けたため、きびしい料理長から即、退出命令が出る。しかし、妻のお産を控え現金が欲しい一念で必死に食い下がりなんとか、標準サイズの予備の靴を無理やり足を突っ込んで、この場にいる。数分後に迫る危機で、彼が宿泊客救出に並外れた能力を発揮することを誰もまだ知らない。

このアルジュン、宿泊客のアメリカ人家族、そして陣頭指揮にあたる料理長を軸にしてテロの流れを、時折実際の映像も加えながら、余すところなく描いて行く手際が素晴らしい。もちろんテロリスト側の様子、とりわけ自身はパキスタンにいながら、聖戦(ジハード)を完遂せよと若いテロリストたちに迫る指導者の電話口で響く声がさらに恐怖感を増すことに。

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炎上するタジ・マハル・パレス・ホテル

不思議なことは、ムンバイのような大都市というのに、警備体制がまことに脆弱で、特殊部隊はデリーにしか置いていないらしいから、いたずらに死傷者の数を増やすことになった。犯人側はその点を事前に十分把握して行為に及んだものと推察される。

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事件後、完全に修復されたホテル

#68 画像はIMBdから。