ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ある告発の解剖」@Netflix

220515 ANATOMY OF A SCANDAL (あるスキャンダルの解剖)2022 米 Limited Series 全6話 4時間半で見られる手頃な作品。原作:サラ・ヴォーン、脚本:メリッサ・ギブソン(共)、監督:S.J. クラークソン 以上主要スタッフはすべて英国人女性です。ちなみに、クラークソン監督は御年72歳!内容が内容だけに、驚きます。また、主要な出演者もシエナ・ミラー以外は英国人です。

不倫の話です。主人公のジェームス・ホワイトハウス(凄い名前です!)は現内閣の閣僚です。不倫相手は部下のオリヴィア。5か月継続して、ジ・エンドを男が宣言します。これで終われば、特にお互い波も立たず、それきりだったはずですが、女には男以上の未練があったんですね。ある日、あろうことか神聖な議事堂内のエレベーターの中で”それ”は起きました。

しかも、女は男をレイプとして訴えたんですから、まあ余程の執念、怨念、覚悟があったんでしょう。んでないと、自分も返り血を浴びて社会的なキャリアは抹殺されますからね。

ここから法廷ドラマとして、なみなみならぬ描かれ方をしていきます。後半はちょっと残念でしたが、かなり引き込まれます。検事役のケイト、実はその昔、被告の男とは大学構内である事件に遭っていたことがのちのち判明します。同じオックスフォードの同級生だったのですから。ついでに男の妻ソフィーも同じ学年だったのです。

映画は、その時代に遡ってフラッシュバックを繰り返します。男の大親友トムはなんと現首相をやっています。ジェームスとトムは、オックスフォードの男子学生で結成した組織のメンバー同士、あるヤバい事件に巻き込まれ、互いに庇い合う仲として終生の誓い立てます。

と言ったことで、ジェームスは裁判にはかろうじて勝訴するのですが・・・・。政権をゆるがす大スキャンダルに発展することを匂わせて、女は子供を連れて男の元を去っていきます。

原作も含め女性ばかりのスタッフで、よくぞここまで生々しい内容に仕上げたものと半ば感心し、半ば呆れます。日本ではあり得ない単語・用語がふんだんに出てきます。

この作品、見ようとしたきっかけはだいぶ以前に夢中で見た「ダウントン・アビー」のクローリー伯爵家の長女メアリーを演じたミシェル・ドッカリーが出ていることです。美人というより、なにかツンとすましたような、どちらかというと冷徹な感じのする、いかにもイギリス人というタイプの女性ですが、どこか気になる女優です。そう言えば最近では「ゴッドレス」という西部劇で、打って変わって荒々しいタイプを演じてました。

今回の検事役もハマり役と言っていいかも知れません。イギリスの裁判制度というしきたりで、いつも可笑しく思うのはあの白いカツラです。訴訟の公平さと厳粛さを保つ工夫の一つらしいですが・・・。もちろん彼女もこれを被ってました。

主人公のジェームスを演じるのはルパート・フレンド、「ホームランド」のピーター・クインのイメージが強く、本作の役どころには馴染めません。本人もこのキャストを引き受けるかずいぶん悩んだらしいです。クインがかっこよかっただけに、ファンは残念がるでしょう。ジェームスはいやなヤツですからね、究極の。

その妻、ソフィーを演じるシエナ・ミラーは、愚亭にはほとんど馴染みがありません。ちょっとジェシカ・ビールに似た、どこか寂しげな女優です。亭主の不倫相手の女にはやはりイギリス人のナオミ・スコット。これも別段特筆することもありません。損な役ですが、演技は上手かった、とくに裁判中の表情など、見事でした。

ともあれ、どいつもこいつも鼻持ちならない上流階級の連中で、見終わった感じはスッキリしなかったです。

「ザ・サーペント」@Netflix

220512 THE SERPENT 2021 英国TVドラマ 1シーズン、全8話 一話がほぼ1時間なので、割に楽に見られます。監督・製作総指揮(共):トム・シャンクランド(ほとんどTVドラマ専門)

1960~70年代の雰囲気の出たポスター

これまた実話を基にした作品です。殺人鬼の話。舞台はメインがタイ(バンコクチェンマイなど)、カトマンズ、香港、ボンベイ、デリー、カラチ、パリなど目まぐるしいです。その都度、その当時に実写フィルムを随所に使って現地の雰囲気を巧みに醸し出しています。

主人公は天才的な詐欺師で殺人鬼の自称宝石商。確かに宝石の売買が金儲けの柱にはなっています。殺人とそれによる盗み(現金、宝石類)、投獄、脱獄を繰り返します。インド人とベトナム人を親に持つのですが、フランスないし、フランス語が話されるベトナムで幼少時を過ごすので、英仏語が母国語です。

この役を演じるタハール・ラヒムが上手いです。彼はパリで生まれ育っていますが、名前と顔つきから判断するに、明らかに中東系で、この役にはぴったり。

インドで彼と運命的出会いをして相思相愛となり、その後、殺人などの重犯罪の共犯となる女性が登場します。これまたいろんな名前を彼の指示で使い分けます。演じるのは英国人のジェナ・コールマン(彼女の出演作は見たことはありません。)です。かなり小柄ですが、なかなか魅力があります。彼女、仏語は全くダメなので本作のために耳からの特訓をしたとか。

他方、彼の犯行をたまたま知ったタイのオランダ大使館勤務の参事官が大活躍します。ある程度の資料を収集してタイ警察に捜査依頼をしますが、まとも取り合ってもらえず、ならばとなんと自身で捜査しようとします。妻も当初は極めて協力的なのですが、男があまりにものめり込むので次第に距離を置き、最終的には離婚に至ったのは大いに同情します。

確かに大使にも再三注意されます。「お前の仕事じゃないだろう。参事官としての本来の仕事をやれ!」と言われ続けて何年も経過するというのも、どっちもすごいです。ちょっと考えられないです。上司の命令を無視して業務外のことに没頭するのですから。

その間にも、殺人鬼の犠牲者がどんどん増えていきます。手口は単純で、金がありそうと見込んだ、主にカップルに親切そうに近づき、最終的に毒殺ということです。警察の捜査網が手薄なアジア諸国で犯行を繰り返すのは絶対に捕まらないという自信があったんでしょう。

本物はまだどこかに収監されているはずです。彼女の方は子宮がんで刑期を早めて釈放され、故郷のカナダで亡くなったとエンドロールに出てきます。

どうでもいいことですが、この作品で登場人物の吸うタバコの量が半端ないです。誰もが常にスパスパ、あの時代ってそんなだったかなあと思ったほど。ヘアスタイル、コスチューム、車、ラジカセなど小物に至るまでよく研究して当時色を濃くだしています。最後まで面白く見られました。

「The Defeated - 混沌のベルリン -」

220508 SHADOWPLAY (影絵)仏・独・加合作 監督:モンス・モーリンド(スェーデン、53歳)

舞台が終戦直後の、まさにタイトル通り混沌としたベルリンということだけで、食指が動いてしまいました。そして、見てセーカイでした。全8話というのも程よい長さですし、ちょっと中弛みもありましたが、トータルでは面白く見ました。

主人公はNYPDの若手刑事マックス(テイラー・キッチュ)。4分割されたアメリカ地区での地元警察の捜査に協力し、組織固めをするのが主任務である一方、行方不明となっている兄、モリッツの捜索に全力を上げます。

地元警察内でのトップはエルジーニーナ・ホス)で、売春婦を巧みに使ってさまざま悪事を働く医師グラドウ(セバスチャン・コッホ)を検挙することに目下集中していますが、頭脳プレイでなかなか尻尾を見せません。

一方、マックスの兄は、戦後逃げ延びようとするナチスたちを片端から独特の手法で捉えては残忍な方法で処刑していることに、弟マックスはなかなか気付きません。

また、エルジーの夫レオポルドはソ連側で捕虜として不当に勾留され、ソ連側トップの男が狡猾にも釈放を餌に、エルジーからアメリカ側の秘密情報を引き出そうとします。

こうしていくつかのストーリーを織り交ぜながら進行していきます。なんといっても、瓦礫のベルリンの街並みが見事に再現されています。もちろんCGも使っているのでしょうが、どこか広大な土地に一部を再現して撮影していたようです。ちなみに撮影場所はチェコプラハとか。

終わり方が、次のシーズンがあることをたっぷりと匂わせます。秀作。

「夏の嵐」@Amazon Prime Video

220505 SENSO (官能)イタリア 1954年 

さすがにリアルタイムでは見ていません。多分、テレビで放映された時ですから、製作年より相当後のことという記憶がありますが、今回、配信で改めて鑑賞し、冒頭シーン以外、ほとんど覚えていないことがわかりました。まぎれもなくルキーノ・ヴィスコンティの名画ですが、封切り時での日本での評判は芳しくなかったとか。助監督としてフランチェスコ・ロージフランコ・ゼッフィレッリが参加したというから豪華な布陣です。

主演の二人には、原案ではマーロン・ブランドイングリッド・バーグマンを予定していたようですが、ブランドは主に製作陣からの反対があり、実現しなかったようです。バーグマンが出なかった理由は不明です。いずれにしても、ファーリー・グレンジャーアリダ・ヴァリはそのお陰で歴史的な作品に出演するという幸運に恵まれたことになります。尤も、グレンジャーは撮影終盤、ヴィスコンティと大げんかの末、アメリカに帰ってしまい、最後のシーンは別人を立てて凌いだとか。最後の数分ですが、確かに顔はほとんど写されていません。もう少し前の段階だったら、と思うと、お互いにタイミングをはかってケンカしたんですね。

時は1866年の春から夏ということですから、イタリアは第三次独立戦争ってんで、隣国のオーストリアとドンパチやってたんですね。ところが、この舞台であるヴェネツィアでは、町中にオーストリア兵がいるんですが、戦時という雰囲気はまるでなく、なにかのんびりと過ぎているように見えます。

冒頭、フェニーチェ劇場でのシーンから始まります。なんと歌劇「イル・トロバトーレ」の第3幕の終演部、例のマンリーコ役テノールDI QUELLA PIRAで、ラスト、ハイCを長々と出し切って拍手喝采を浴びるところです。そこで、主役の二人が初めて会うのです。方やオーストリア軍のマーラー中尉(ヴィスコンティは作曲家マーラーが好きで、「ヴェニスに死す」でも使いましたが、ここでも!)、こなたリヴィア・セルピエーリと名乗る伯爵夫人です。

ここから前半は二人の恋路をたどります。男は典型的な女たらしで、恋愛経験の薄い伯爵夫人はまんまとひっかかって、大金まで巻き上げられた挙句、捨てられるんですね。聡明そうに見えても、彼の手練手管には手もなく落ちちゃうんですから、見ていて歯痒いこと!

やがて、後半は壮絶な戦闘シーンが繰り広げられ、この描き方もすごかったとしか言いようがないほど。さすがヴィスコンティです。

彼から騙されたと知った伯爵夫人、なにしろ彼が脱走目的で医者に偽診断書を書かせるための大金を用意したのですが、出どころは必死で戦っているイタリア義勇兵から預かった、いわばなけなしの戦費ですからねぇ〜。そのままでは済ませられません。思い切った手を打ちます。でも、心が晴れることはもう絶対にあり得ないから、結末は映画に描かれなくても見えています。

ファーリー・グレンジャーは1940年代から50年代にかけてハリウッドで活躍した2枚目アメリカ人。イタリア語ができたかどうか分かりませんが、不自然さは感じなかったですね。ヴィスコンティはあっち系ですから、やたら2枚目大好き人間で、ヘルムート・バーガーアラン・ドロンビョルン・アンドレセンヴェニスに死す)、等々、起用しています。そういう彼のお眼鏡にかなっただけあって、確かに美男で、この時代はその絶頂期だったかも。

アリダ・ヴァッリさん、本作より5年前の「第三の男」(アンナ・シュミット役)の方で有名かも知れませんが、愚亭はフランス映画「かくも長き不在」(本作の8年後、テレーズ役)の方が好きです。美人には違いないですが、角度によってはかなり実年より老けて見える、いわば老け顔とでも言うんですかね。だから、この伯爵夫人役というのは、どうもイマイチって感じで鑑賞しました。因みに、撮影時、ヴァッリは33歳、グレンジャーは29歳!

原題「官能」でなく「夏の嵐」とした邦題は大正解!

きっとフランコ・ゼッフィレッリのセンスが生かされたと思える室内装飾

我慢できなくて、とうとう宿舎にまで訪ねるリヴィア。右はクリスチャン・マルカン

奪った金で贅沢三昧だがやさぐれたフランツ。

 

こどもの日、呑川に鯉が。

220505

定例化している休日の朝の散歩は、今日も呑川沿いのルート。ふと下を見ると、ゆったりと真鯉と緋鯉が!わざわざこどもの日に合わせたかのように優雅な姿を見せてくれました。