ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ある過去の行方」

140501  原題:Le Passé (過去)仏伊合作 脚本・監督:アスガー・ファルハディ 出演:ベレニス・ベジョ(アルゼンチン出身。Bejoはベホ)、アリ・モサファ(イラン人。2ヶ月で仏語特訓。)、タハール・ラヒム(仏ベルフォール出身だが、顔もそうだが、名前からしてイスラム系だろう。彼の経歴には何故か詳細が伏せられている。)

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パリの空港。元夫のアーマドを迎えに来たマリー。アーマドはマリーとの離婚手続のためにわざわざイランから飛んで来たのだ。空港からパリ郊外の線路際にある自宅へ向かう。庭で遊んでいた子供たち、一人はアーマドの娘だ。

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ホテル予約を頼んでた筈なのに、本当に来るかどうか分からないからと手配していないし、そのことはメールしたと主張するマリー。いや、受け取ってないと突っぱねるアーマド。この辺りからギクシャクした会話が延々と。

 

この家に泊まればいいと言いながら、子供と同室の、しかも2段ベッドしか用意していないマリー。なにからなにまで泥縄式で、手際が悪すぎる女だ。更に、既に新しい彼サミールと同棲していることも分かって来る。しかも、長女のリュシーから、サミールには自殺した妻がいると知らされるアーマド。なんてこった!

 

物語がかなり進行するまで、家族の相関が分かりにくい。特に子供の親が誰なのか、頭の中で必死に整理しながら、それでも興味がつのるばかりの見せ方はいかにもファルハディらしい。会話に重きを置き、俳優たちに徹底的に語らせるのは前作や前々作と同じ手法だ。

物語は、子供も巻き込んで、際限のない激しい罵り合いに発展していく。出口が見えない、いかにも破滅的な展開だ。大人たちの身勝手さばかりが際立つ。間に立つ子供たちが気の毒で見ていられない。

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それでも、人は生きて行かなければならない。幼少時代、或は思春期に、かくも複雑極まる人間関係を体験して強くなって行くのか。トラウマの影響は?

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やがて、リュシー⬆(ポリーヌ・ビュルレ、「エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜」でピアフの子供時代を演じた)がアーマドに告げたサミール夫人の自殺の原因が、まったく別のところにあることが判明、すんでのところで、家族の完全崩壊だけはなんとか食い止めるところで、物語は終わる。

 

期待通り、上質なミステリーに仕上がっていて、寸時たりとも眠気を催すことはない。

 

ファルハディがイランで作った「彼女が消えた浜辺」と「別離」は日本でも公開され、いずれも高い評価を受けた。本作は初めてフランスで撮影されたフランス語作品。彼がペルシャ語で脚本を作り、仏語に訳させたわけだが、自身フランスに住み、フランス語の響きやリズムを彼なりに習得、訳語がぴったり馴染むか、相当神経を使ったとか。

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主演のベレニス・ベジョ⬆、前に見た「アーティスト」の時とはまるで別人という印象が強い。「アーティスト」がモノクロだったせいもあるが、本作ではスッピンに近いメークで、失礼ながら美人でもないし、その辺を歩いていたら女優とは気付かないほど。

 

この役、当初マリオン・コティヤールが予定されていたようだが、他の作品の撮影時期と重なり、ベジョに回ったらしい。いやいや、顔はともかくとして、演技はしっかりしているし、ベジョでよかったのかも知れない。

 

それにしても、最近見た「8月の家族」でも感じたことだが、欧米人の家族・夫婦間、或は恋人同士の感情表現て、どうしてかくも激しいものになるのか。思っていることを細大漏らさず、すべて相手にぶつけて、相手からも同様にされて、それでお互いにスッキリしあい、後には何も残さないから、その方が後々よい結果を生むだろうか。ビミョーだなぁ。

 

 #36 画像はALLCINEMA on lineから。