ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「間奏曲はパリで」

140629 今年のフランス映画祭出品作品。本国より先に見られるというところがいいね。

原題:Ritournelle (音楽用語のリフレイン、繰り返される言葉や行為を指す。ルーティンとも)この邦題について、終映後のトークショーに登場したマルク・フィトゥッシ監督が、「ま、パリよりノルマンディーのコー地区が主たる舞台だけど、日本ではタイトルにパリを入れると受けるようだから、いいんじゃない?」と発言して観客を笑わせていた。下はフランス映画祭2014の公式ホームページから。

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飼育しているシャロレ牛の品評会が冒頭のシーンだが、いきなり散々笑わせる。ユペールさんは余りこれまで喜劇を演じたことがない女優だが、やはりこの人、何でも対応できる優れた女優であることを、今さながら感じる。

一方,相手のジャン=ピエール・ダルッサン(サン・ジャックへの道」、「キリマンジェロの雪」、「画家と庭師とカンパーニュ」、「ルアーブルの靴磨き」)は、顔つきがそもそも喜劇役者!だから、いるだけでおかしいのだ。こういう味を出せる俳優は貴重な存在。

娘も息子も巣立ち、夫婦二人だけで、田舎で食用牛を育てながらゆったりとした生活なのだが、やはり単調だけに、ふとしたことで、特に女房の心に寂しさのようなものが芽生える。ふとしたことというのが、隣の家で若いパリジャンたちのダンス・パーティーに誘われ、知り合った若いパリジャンにほのかな恋心。最近胸に出来た湿疹治療ということにして、ここから舞台はパリに移る。

心配のあまり、女房を追ってパリへ車で密かに駆けつける亭主が見たものとは。ショックも失意もあったけど、逆に軽業師を目指す一人息子が、予想外に素晴らしい演技を習得している現場を見て、心なごませる場面がよかった!

傷心の思いで自宅に戻った亭主を使用人が慰める場面も素晴らしい。「奥さんだって、あなたが浮気した時、同じように実は後をつけたんですよ!」と。

パリから戻った女房と、当たり障りのない、ちょっとぎこちない会話をしながら、お互いに自分にはやはりこの人しかいないんだ、とシャロレ牛のつがいにたとえて確認し合う二人。そして、パリでかりそめの恋人だったデンマーク人が皮膚病にいいからと勧めた死海への旅行に出かけ、真っ青な空の下、ボワーっとした砂漠を背景に、死海にプカプカ浮かぶ二人、やがてその姿が一つになったところで-FIN-。

なお、重要な場面で何度も流れる歌は、サッシャ・ディステルで有名になったLa Belle Vie。後に英語タイトル、The Good Lifeとして、トニー・ベネットジュリー・ロンドンがカバーしている。

終映後にフィトゥッシ監督が登場、観客と質疑などが行われた。

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イザベル・ユペールに対する演技指導などはどのように、という質問に、彼女は自由に演技するより、監督からの指示通りに演技するのを好むタイプという。ちょっと意外だ。

映画の中で、日本人が登場するシーンが2カ所ほど出て来るが、日本を意識してのことか、という質問には、そういうことでなくて、国際性を単に表現したに過ぎないとの答え。勿論、日本は好きだがと付け加えることも忘れなかった。

来日は初めてだそうで、この後、映画祭は大阪へ移動するので、しばらく日本の旅行を楽しむらしい。

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#55 画像の一部はフランス映画祭公式ホームページから。