ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

勅使河原マジックの「魔笛」@神奈川県民ホール

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こうして改めてチラシを眺めると、ほんとうに凄い顔ぶれのキャスト陣なのだ。それ以上に凄かったのは、やはり勅使河原三郎が創り上げた世界だろう。演出、装置、衣装、照明、etc. 、どこを切り取っても、楽しくなければオペラじゃない、と言わんばかりだ。

この舞台、昨秋名古屋での公演で、すっかり日本オペラ界の話題をかっさらった観ありで、実際にその時の舞台を見た友人たちから随分聞かされており、愚亭も首都圏での公演を待ちかねていた一人だ。

本公演のキーワードの一つは円だろう。本人も「演出ノート」に書いているが、さまざまなサイズの輪っかが登場する。神の世界と人間の世界を取り持つきっかけの一つとしたかったのか、まあ観る人、それぞれに解釈は委ねられているんだろうが、愚亭にはそんなメッセージ性が感じられた。

ところで、後半、それまでのものより圧倒的に大きな、直径10メートルはあろうかと思われる輪っかが登場し、これが舞台の進行に合わせるように、角度や高さが変化するのだが、天井裏で人間が操作するのか、コンピューターが使われているのか、舞台そっちのけで、あらぬ方へと興味が湧いてしまった。

ついでに、色彩的効果についてだが、今回の基調は白!それに黒と赤が交じり合い、それ以外の色彩はことさら排除していたように思う。通常、鳥刺しパパゲーノと言えば、派手なグリーン系のコスチュームが使われるが、今回は白一色。当然、パパゲーナも同様。

さらに意外なのは、一般的には黒で表現されるモノスタトス(青栁素晴)だが、これまた真っ白け。しかも、足元までのだるま風の被り物で全身が覆われ、野球のグローブのような大きな手を持つ2本の腕が胴体からニョキッと突き出ていて、もうそれだけで笑ってしまう。

ザラストロ(大塚博章)も白、頭部には連獅子を思わせるようなフサフサの長い髪が垂れているという趣向。神官も、頭だけ出して、首から下は円錐形という具合で、次々と異様な風体の演者が現れる。

もう一つ、字幕の他にナレーションが入る。それをダンサーが舞台上でやるのだ。進行役だが、解説が入る分、振りが省略されることがある。パパゲーナは老婆姿で現れ、パパゲーノと老婆の声でのやり取りが入るのが一般的だが、それらは一切なし。老婆風から、いきなり若いパパゲーナが登場。この役の醍醐園佳は楽だったろう。

パミーナの嘉目真紀子は一層安定感を増している。夜女の安井陽子、さすがの地獄の炎だ。パパゲーノの宮本益光は、最近、出演よりプロデュースに重点を移しているような活動ぶりだが、久々のこの役を存分に楽しんでいるようだった。

長丁場ゆえ、途中で必ず睡魔に襲われることになる魔笛だが、今日は襲われずに済んだのは、やはり勅使河原マジックだったのだろう。

#13 文中敬称略