ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「リゴレット」@牛込箪笥町ホール

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NPO法人オペラ普及団体であるミャゴラトー(ニャーニャー鳴く猫、転じて調子外れで歌う人の意も)主催の「小劇場演劇的オペラ」シリーズ第4弾。ちなみに、第1弾は2014年、ザ・高円寺での「ラ・ボエーム」。2回目からは会場を牛込箪笥町ホールに移している。

演出:岩田達宗 X 指揮:柴田真郁が創り出す小宇宙に一度でも浸るとほぼ中毒症状、必ず次も行きたくなるシリーズだ。

舞台にはピアノがポツンと置いてあるだけ。本来客席となる平土間の前方1/3を実際の舞台にし、さらに客席の最上部や通路もすべて利用して繰り広げる手法には、観客聴衆もオペラの中に巻き込む意図が込められいる。マエストロは、ピアニストの横にいて指揮をするが、状況次第で舞台に降りてきたり、客席内の通路にまで移動しながら指揮をすると言う独特なスタイル。

冒頭、闇の中で、四方から男が椅子を持って登場し、中央に椅子を並べると、今度は四方八方からワラワラと黒い影が現れ、歌い始めると言う、相変わらず人を食った序奏だ。端役や合唱隊に、よくぞこうした一癖も二癖もありそうな容貌の芸達者な歌手を揃えるものと感心させられる。

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リゴレット須藤慎吾は、見るたびに聞くたびに凄さを増している。「悪魔め、鬼め!」は圧巻!ジルダの國光ともこは初めて聞いたが、太く通る声が魅力的。1幕後半で歌われる有名なアリア「慕わしき御名」は最高の出来栄え。

マントヴァ公爵のテラッチこと寺田宗永は、第1回のロドルフォの時も感心したが、今日の出来も、頗る上々で、「あれかこれか」、「女心の歌」、そして難関の4幕の四重唱も、見事に歌いきった。途中、冷房の聞いた館内で、”水攻め”にされたり、バスタオルを腰に巻いただけで登場するなど、気の毒な場面も。

マッダレーナの向野由美子、スパレフチーレの大澤恒夫、モンテローネの薮内俊哉、いずれもたっぷり持ち味を発揮して好演。

特筆に値するのは、チェプラーノ夫人の大沼 徹とジョヴァンナの青栁素晴!どうやるのかと思っていたら、女装して音域を下げて歌うだけのことなのだが、もう登場するだけで笑いを誘った。大沼はやや開き直った演技、青栁はあくまでも可愛らしさを前面に、と言う印象。一つ一つの仕草がこの上なく、可愛らしかった。しかも、この二人、カーテンコールでは、端役のくせに、ちゃっかりとジルダやマッダレーナに続いて退場すると言うおまけ付き。

それにしても、タイトルロールを堂々と張れる大沼や青栁をこんな風に使うとは、なんともはや贅沢なプロダクションだ。

最後に忘れてはいけないのが伴奏ピアノの浅野菜生子、掛け値なしで日本では、最高の折り紙つきオペラ伴奏ピアニストの一人。この長いオペラを、しかも暗い時間の多い舞台で、マエストロが見えたり見えなかったりする中、よくぞ弾ききったものと感嘆あるのみ。

#22 (文中敬称略)