ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ハクソーリッジ」

170626 原題:HACKSAW RIDGE  2016 豪・米 139分 監督:メル・ギブソン、製作に7人、製作総指揮に16人もが名前を連ねているのは、珍しいだろう。

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太平洋戦争末期、アメリカの中流階級で育ち、敬虔なセブンスデイ・アドヴァンティスト(キリスト教新興宗教の一つで「安息日再臨派」)教徒の若者が、戒律に法り、自らは武器を持つことなく戦場に出て祖国に尽くしたいという一念から、様々な障害を乗り越え、ついに衛生兵としての参加を認められ、ひたすら友軍負傷兵を救うことに自らの存在意義を見出していく話。これも実話をベースにした作品。

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⬆︎あまりの惨状と、自分の無力さに呆然とするデズモンド。

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⬆︎それでも、一人、また一人と負傷兵を崖下へと吊りおろし、最終的に75人の命を救うことに。この戦場での最大な功労者だろう。

後半、30分近い激戦の場面が最大の見せ場になる。耳をつんざく破裂音、爆音、銃弾を浴びて、血を噴き出しながら宙に投げ出される兵士、もんどりを打って地面に叩きつけられ絶命するもの、四散する頭部、手足、内臓、それに群がるネズミの群れ、ほとんど正視に耐えぬシーンの連続で、これぞメル・ギブソン・ワールドか。

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⬆︎せっかく激戦を生き延びたのに、再びハクソーリッジ攻略を目指す小隊。「早くかかれ!」と急がせる本部に対し、「いまデズモンドが祈りを捧げているからちょっと待ってくれ」と答える上官のグローヴァー大尉(サム・ワージントン)。彼らには、もはやデズモンドが一番頼りになる存在なのだ。

パッション」(キリストが裁かれ、鞭打たれ、ゴルゴダの丘へ向かって、ヴィーア・ドロローサをよろめきながら、登る姿を克明にとらえた)、「アポカリプト」(16世紀のメキシコ、アステカ民族同士の抗争、コルテスに滅ぼされるまでを描いた)などの撮影スタイルを本作でも貫いている、というよりどこまで迫真力を高めらるか、依然挑戦しているようだ。

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⬆︎ついに負傷したデズモンド、今度は自分が担架に乗せられ、崖下へつり降ろされることに。これがラストシーン。

沖縄戦の激戦ぶりは、つとに知られているとはいうものの、このような戦いがあったことについては、恐らくほとんどの日本人も、実は知らないのではないか。少なくとも自分は知らなかった。ハクソーリッジが前田高地を指すアメリカ側の呼び名ということも、今回初めて知った次第。海側から見るとギザギザとノコギリのごとく聳え立つ崖は、Dデイのノルマンディー海岸の最重要ポイントのポアント・デュ・オックの如く、攻める側からすれば立ちすくむ想いだったろう。そうした兵士の恐怖心を少しでも和らげようと、できるだけ沖合いからの徹底した艦砲射撃で、日本軍を壊滅状態に追い詰める作戦だったが、いざ高地の上にたどり着いた米軍兵士たちを待っていたものとは・・・・

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⬆︎日本軍と監督

歴史上、稀に見る激戦は数知れず、その多くはすでに映画化されていて、枚挙にいとまないほど。近年での戦争大作といえば、「史上最大の作戦」、「バルジ大作戦」、「遠い橋」など、第二次大戦のものが記憶に新しいが、最近は音響も、C.G.画面もどんどん進化しているから、凄まじいまでの戦闘シーンが生まれている。中でもスピルバーグの「プライベート・ライアン」やブラピ主演の「フューリー」、イーストウッドの「硫黄島からの手紙」などが代表的か。

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⬆︎メル・ギブソン、演技指導か?

そうした作品を戦闘シーンでの迫真力ではるかに凌ぐの本作だろう。間もなく封切られる「ダンケルク」も、海に追い落とされる連合軍の必死の抵抗ぶりがどのように描かれるか、大いに楽しみである。

さて、主役のアンドリュー・ガーフィールドだが、別に好きな俳優でもないのに、調べたら、彼の出演作で日本公開されたものは全て見ている。「A BOY」、「わたしを離さないで」、「ソーシャル・ネットワーク」などは、やや性格の弱いタイプの役が多かったような気がするが、最近は、意思強固なタイプを演じる機会が増えているような気がする。

アメイジングスパイダーマン」は措くとして、今年初めに封切られたスコセッシの「沈黙」の宣教師ロドリーゴなど、随分役柄が変化してきている。本作でも、頑固なほど戒律にこだわり続けた男を演じているわけで、彼の風貌や、やや華奢に見える体格などから、これがミスキャストにならないのか、と思えたが、エンドロールが流れると、実写フィルムで、デズモンド・ドス本人が登場、なるほどこれならガーフィールドで大正解と納得させられる。

 

#41 画像はIMDbから