ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ビニー/信じる男」

170801 原題:BLEED FOR THIS(これに血を流せ➡︎このために戦え、かな?)米、117分 原案・脚本・監督:ベン・ヤンガー、製作総指揮:マーティン・スコセッシ

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割にボクシングは知っているつもりだったけど、こんなボクサーがいたこと、知らなかった。つまり超一流というボクサーではなかった。だけど、奇跡を起こしていたのだ。これは、日本人ではあまり知られてない実話。

日頃の肉体鍛錬とたゆまぬ精神修養が求められる世界、ボクシングもその代表的な種目だろう。チャンピオンに上り詰めてからが、最も厄介な時期だから、よほどのトレーナーが付いていない限り、若いチャンプには、あまりにも多くの誘惑から逃れられない。ついでに運もあるし!

この主人公ビニー(マイルズ・テラー)の場合は、友人が運転しての交通事故だから、これはもう不運としか言いようがない。それも正面衝突で、運転していた男の不注意(典型的によそ見運転)だったのに、助手席のビニーの方が重傷を負ってしまう。脊椎損傷一歩手前だから、再起不能は当然としても、果たして歩けるぐらいまで回復できるかどうかが医者の見立て。

まあ、普通なら、これで一巻の終わりで、この作品も生まれなかったところ。そこからが、このビニーという男がタダモノじゃなかったというところで、物語としては、ここがスタートライン。結局、この難局を信じられないほどの克己心というのか精神力で乗り切って、見事復活を果たすという話。

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トレーナー役のアーロン・エッカートがこんなに禿げ上がっていたとは!普段はズラつけてんのか。まさかこっちがCGとかじゃないよね。このトレーナーも、はなっから、再起など念頭にないから、地下のトレーニングルームで密かにトレーニングを開始しているビニーを見て、腰をぬかさんばかり。でも、彼の本気度を見極めて、加担することに。

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(⬆︎左)もう一人、もっと厄介な存在は、ビニーがパピーと甘える父親キアラン・ハインズ)だ。我が子にそんな危険な真似は絶対にさせないと、トレーナーを追い出す。が、最後は折れざるを得ない。条件付きで。これまでずーっとビニーのセコンドを務めてきたけど、次の再起戦では客席から見ることにすると。

きっとこうなるという展開は読めても、登場するボクサーで唯一知っていたパナマロベルト・デュランとの12回をフルに戦う場面がやはり見せ場で、スタントやCGの助けを借りているとは言え、迫真力はハンパない。すっかり自分が戦っている気分になってしまっている。

本作もエンドロールが出てしばらくすると、当人の実写フィルムが出てくるから、席を立っては絶対ダメなのだ。映画館で見る場合は、場内が明るくなってから席を立つのが鉄則!

さて、ビニー・パジェンサ、実際の名前はVincenzo Pazienza(ヴィンチェンツォ・パツィエンツァ)、れっきとしたイタリア移民の子である。パツィエンツァは、忍耐とか患者という意味があるが、偶然とは言え、よくできてる。彼の勝利への貪欲さをタスマニアン・デビルになぞらえて、パジェマニアン・デビルの異名を取っている。1962年生まれの現在54歳。

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頭蓋骨を固定するハローとか称する方法だが、頭の何箇所かに穴を開け、ボルトで締め付けるわけで、これを締める時は麻酔をかけて施すのだが、外す時には、ビニーが麻酔が体に影響を及ぼすと医師に主張して止まず、ついに麻酔なしで1本ずつ外していくことに。この場面は、ちょっと正視に耐えないほど。

このビニーを演じたマイルズ・テラーだが、「セッション」(2014)でのドラマーを演じた姿がまだ目に焼き付いている。それほど、強烈な印象を残した。尤も、あの作品では、彼をしごき尽くすJ.K.シモンズの方が印象が濃かったかも知れないが。甘っちょろい風貌だけに、意志の強さを感じさせる演技力は、やはりタダモノではない。

ついでながら、父親役のキアラン・ハインズ北アイルランド人で、いかつい体と目つきに特徴があり、一度見たら忘れられない風貌。これまで「ヴェロニカ・ゲリン」、「ミュンヘン」、「ゼア・ウィルビー・ブラッド」、「裏切りのサーカス」などで、重要な脇役を演じてきている。存在感たっぷりの俳優。

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#51 画像はALLCINEMA on lineとIMDbから