ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ジャコメッティ 最後の肖像」

180111 英 90分 FINAL PORTRAIT(最後の肖像画)イタリア系米人の喜劇役者スタンリー・トゥッチの監督作品というから、驚く。尤も、過去数本、自分で撮った作品あり。「シェフとギャルソン、リストランテの夜」(1996)など、自分も出演しての監督作品だが、本作は自らが出演していない初の監督作品。

f:id:grappatei:20180112121016j:plain

昨秋、国立新美術館で「ジャコメッティ 展」を見たばかりという絶妙のタイミングでの本作公開!それにしても、ジェフリー・ラッシュの役作りが余りにも見事で、画面に引きずり込まれる。昨年見た「ロダン カミーユと永遠のアトリエ」でロダンを演じたヴァンサン・ランドンもなりきっていたが、本作のラッシュは写真や動画で見るジャコメッティ、そのものという感じだ。

ジャコメッティはイタリア国境近くのスイスの寒村出身、父親も絵を描く環境で育ったから、彼も、二人の弟も絵を描いていたが、成功したのはアルベルトのみ。すぐ下の弟であるディエゴはよくアルベルトのモデルにもなっていたが、後年は助手のようなことをしていたようで、本作にも登場している。

そんなわけで母国語はイタリア語だが、そこはスイス人、しかもパリで制作活動をしていたから、仏語は母国語同様だし、英語も堪能だったらしい。

ほんの数日でいいからと言われ、モデル役を引き受けた作家で美術評論家のアメリカ人ジェームス・ロードは、ニューヨークに一刻も早く発つ予定だったが、ジャコメッティに対する好奇心には抗えず、多少モデル役を延ばされても構わないと、彼のアトリエへ。

f:id:grappatei:20180112122811j:plain

すると、せっかく現れた友人を尻目に制作中の仕事をやり始め、ロードも戸惑いを隠せない。それでもやっと所定の位置に座らされ、キャンバスを据えて、描き始める段になると、「随分凶悪なツラしてんなぁ」とか「いや、待て変質者の顔だ」とか、散々人の顔をくさすではないか。苦笑するしかないロード。しかし、本当のジャコメッティの凄さを知るのは、まだ先の話。

f:id:grappatei:20180112122916j:plain

ちょっと描き始めると、「おお、XXック」叫ぶや、筆を放り出すという始末。これを延々繰り返し、気づけば、すでに19日も経過!なんどフライトをキャンセルしたことか。描いては消し、描いては消しの繰り返しに、恐怖すら覚えたロードは、意を決して、自分の覚悟を弟のディエゴに告げるのだった。

この作品、パリでロケしたとばっかり思っていたら、エンドロールで実はロンドンで撮影したと出て、びっくりだ。パリでのロケに金がかかると考えたトゥッチは、ロンドンで撮影して、CGでパリに作り変えたそうだ。今ではこういうことが普通に行われるからすごい世界だ。ロードとジャコメッティが何度か散歩するシーンはてっきりモンパルナスかモンマルトルの墓地だとばかり思ったが、まんまと騙されていたと知った。

日本の哲学者で評論家の矢内原伊作と仲が良かったし、伊作自身もジャコメッティのモデルをしているが、本作でもほんの一瞬だが伊作が登場する。なにかジャコメッティの女房といい仲であるかのような映像は気になる。

それにしても、ジャコメッティの性格描写まで含めて、たったこれだけの挿話を映像作品にした手腕、なかなかのものと感服。

ロード役のアーミー・ハマーは、なんだかなぁ・・・。好みの問題だろうが、端正過ぎて、リアリティーに欠ける。こんな顔を見て、誰が凶悪とか変質者とか言うかね。

見終わった後のホッコリ感は久しぶり。

f:id:grappatei:20180112123952p:plain

#3 画像はIMDbおよびALLCINEMA on lineから