180206 DETROIT 米 142分 製作・監督:キャスリン・ビグロー そう、あのイラクの自爆テロを扱った「ハートロッカー」やオサマ・ビンラーディン確保・殺害の「ゼロ・ダーク・サーティー」を撮った女流監督!この2本とも大変な話題作であったし、男より男っぽい作品を撮るなぁ、と言う印象が強い監督だ。
本作もムンムンするほど男臭さが前面に出ている作品である。1967年夏のデトロイト。史上最悪とも言える黒人暴動と、それを憎悪むき出しで鎮圧に及んだ地元の白人警察官を扱った、まるで再現ドラマのようなドキュメント感溢れる緊迫の画面に、142分、釘付け状態。
冒頭、アニメタッチでアメリカにおける黒人の歴史のような解説がさらっと出てくるが、これは必要だったのだろうか。南部から解放された奴隷たちが北部の都会を目指し、それまで居住していた白人たちは郊外へ去り、やがてろくな職にありつけない黒人たちによる狼藉などで市心部の荒廃が進み・・・という具合。まあ、この程度のことは周知の事実だから、なにも今更感が拭えない。
そして、起こるべくして起こった事件の代表例というわけだ。類似の事件は、公民権法が成立した後も、なんども全米各地で起きているし、白人警察が黒人を射殺する事件は枚挙にいとまがないほど、現在でも起きているのは、かなり絶望的な事態だ。歴史から何も学ばない、学ぼうとしない現在の政権にもぴったり言えることだろう。
余り知られたくないこうした事件を迫真の手法で描き、それが堂々と公開されるところに、この国の懐の深さを感じると同時に、現政府に”忖度”してか、名だたる映画賞の候補に挙がっていないと聞くと、なんと狭量なと思わざるを得ない。
本作は当時の資料、裁判記録や関わった人物へのインタビューなどを通して、再構成したものらしいが、当然加害者側である市警からの情報入手には高い壁があったことは十分考えられるだけに、よくここまで描き切ったものと改めて感嘆あるのみ。
主たる舞台となったのはTHE ALSIER MOTEL。騒ぎがここまで大きくなったのは、このモーテルの一室から競技用ピストル(音だけで弾は出ない)で面白半分に窓から見える警察の一群に向けて”発砲”したこと。一触即発の空気が支配しているから、一気にこれに反応して、モーテルに市警たちが雪崩れ込んで”悲劇”が開始される。
⬆︎このシーンはまことにおぞましい限りで、人種問題を超えた”何”か残忍きわまりない異様な人間性を感じさせる。中央は、狂気の警察官クラウスを演じたイギリス人俳優、ウィル・ポールター。実ににくにくしい演技が印象に残る。
⬆︎自分たちの出番直前の警察の一斉手入れで観衆が追い出され、それでも諦めきれず、一人マイクを持つラリー。まさか、この後、恐ろしい事件に巻き込まれるとは!
被害者の中には、実在のニグロスピリチュアルバンド、THE DRAMATICSのリードヴォーカル(劇中ではラリー)も含まれていて、この時の恐怖心から、その後舞台は断念、教会での聖歌隊で歌う道を選んだ。
やりきれないのは、無実の黒人たちを平然と撃ち殺した警官たちが、結局白人主導の茶番裁判で全員無罪となってしまうことだ。アメリカの良心はどこに?これはアメリカの恥辱と言っていい。これが現実。
#8 画像はIMDbから。