190430 OPERATION FINALE 123分 米 監督:クリス・ワイツ
実話に基づくストーリー。アルゼンチンに逃亡したホロコーストの最高責任者の一人、アドルフ・アイヒマンをイスラエルの諜報機関モサドが極秘作戦で、アイヒマンの居所を特定し、誘拐、密かにアルゼンチンからイスラエルへ移送して、裁判にかけるまでの行動を描く。特に、自宅近くのバス停から家まで歩く間のわずかな時間・空間で、取り押さえてからエル・アル航空で脱出するまでの緊迫感はハンパない。
中心的な役割を任ずるピーター・マルキンを演じたのは、多芸・多彩なグアテマラ人、オスカー・アイザック。どんな役も上手く演じる。チームの一員、ハンナは、自身ユダヤ系のメラニー・ロラン。「イングロリアス・バスターズ」'09、「オーケストラ!」'09、「黄色い星の子供たち」'10、などでもユダヤ人を演じている。
アイヒマン役のベン・キングスレー(Kingsleyはキングスリーが正しい発音だが)、さすがの名演!前半、憎々しいほどの太々しさ、観念した後半は、一転して思慮深い人物へとスタイルを変えている。
戦後、南米のブラジル、アルゼンチンには多くのナチス高官が逃亡していたのは事実。本件では国vs.国でなく、諜報機関がすべて仕切り、イスラエル政府はしばらく関与を否定していた。もちろん主権を侵された形のアルゼンチンは正式に抗議したらしいが、後の祭り。
こうしてイスラエルで裁かれた初めてのナチ高官がアイヒマンで、後に(1962.6.1)絞首刑になり、遺灰は地中海に撒かれたとされる。ユダヤ系の思想家・哲学者、ハンナ・アーレントはアイヒマン裁判を傍聴、「陳腐で凡庸な悪!」と断じたことはよく知られていて、映画にまでなった。極悪非道の人物でなく、家族を愛する小市民的な人物と評した。
確かに、ナチスの上層部にあって、アイヒマンは単に歯車の一つにすぎないわけで、彼一人を裁いたからといって、20世紀最大の戦争犯罪とも言えるホロコーストには、ごく些細な事件ですらないのかも知れないが、イスラエルにとっては一つの区切りにはしたかったと見える。
映画の中でアイヒマンの息子とユダヤ人のガールフレンドが映画館で知り合うシーンで上映されていたアメリカ映画は、あら、懐かしや、愚亭が高一の時に見た「悲しみはそれの彼方に」(ラナ・ターナー、サンドラ・ディー、トロイ・ドナヒュー、そして本作の監督の母親であるスーザン・コーナー)
このタイトルはfinalでなくfinaleとしてあるところがミソで、決勝ではなく、大詰め、大団円のような強調された意味合いが込められているように感じられた。元々は英語がfinal、イタリア語がfinaleで、同じ意味だが、音楽用語で使われると、すこし意味が異なってくる。それゆえ、Final Operationとせず、Operation Finaleと用いたものと思われる。
#28 画像はIMDbから