ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ホワイト・クロウ 伝説のダンサー」

190515  THE WHITE CROW 127分 英仏合作 製作(共)・監督:レイフ・ファインズ(エギュゼキュティブ・プロデューサーに、リアム・ニーソン

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カリスマ・ダンサー、ルドルフ・ヌレエフ(1938-1993)が、ソ連からパリ公演のために、一行と一緒にパリのル・ブルジェ空港到着から、亡命するまでを描く。幼少時代およびソ連でめきめき頭角を表す時代を繰り返し現在にフラッシュバックさせ、テンポよく見せるのは、自らも重要な役で出演しているレイフ・ファインズ。なかなかの手腕だ。

ヌレエフ役に起用したのは、ウクライナ出身のオレグ・イヴェンコ。ダンサーに演技させるか、俳優に踊らせるか、監督としては悩みどころだろう。結局、今回は前者を選んで、セーカイだったとは本人の弁。確かに、演技的になんら違和感は感じなかった。

冒頭のシーンとラストシーンが重なる。ファインズ演じる、ヌレエフのソ連時代のダンス教師、プーシキンに対する尋問シーン。国家の至宝とも言えるプリンシパルをみすみすフランスに亡命されてしまったことはソ連当局としては、重大な失態だから、師たるもの、もちろん心穏やかではない。

レイフ・ファインズは、残忍な収容所の所長や、冒険心に富んだ役、あるいは野心満々な役どころが多いのだが、本作では、どこまでも穏やかで、自宅に仮住まいさせていたヌレエフが妻と情事を重ねていることを知りつつも事を荒立てないほどの人物を演じている。

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前頭部は思い切って剃ってしまったらしい。役をやりながら、監督としてあれこれ指示を出すのに、ズラをつけている時間がもったいないと思ったとか。

さて、肝心のヌレエフ、実物がどれほど凄かったかは、ほぼ同世代を生きたにしては、なーんにも知らない。そもそもバレエに関心が薄かったせいでもある。マーゴット・フォンテエインと組んで盛んに活躍していたことは知っていたが。

バレエのシーンだが、よく知らない者が見ても、その圧倒的な演技には驚かざるを得ないが、さらに、エンドロールで本人が同じ演目を踊るシーンが実写で出てくる。それを見て、オレグ・イヴェンコの凄さを改めて思い知らされた次第。

ただ、ヌレエフ、いわゆるKYとでもいうのか、ジコチュウの極みであり、突如キレたりするし、かなり破滅型の人間だったようだ。ま、天才にありがちだが。それをうかがわせるシーンがなんども出てくる。

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オペラ座(ガルニエ)の前にあるカフェ・ドゥ・ラペーでくつろぐオレグ。

オレグ・イヴェンコ、顔も体つきも申し分ない。それで演技力をつけたのだから、レイフ・ファインズが太鼓判を押すわけだ。

最初にソ連バレエ団御一行様が宿泊先にえらんだのは、パリ10区共和国広場に面するMODERNE PALACE HOTEL。ここは、その後、日本人団体も随分泊まっていた中級ホテル。(現在はCROWN PLAZA)1960年初頭のパリの街並みが出てくるが、走っている車といい、当時のフィルムをCGで加工したようだ。

また、一行がCAVEAU DES POÈMESという名前のジャズのライブハウスで興じるシーンは、実在するCAVEAU DES OUBLIETTES(忘却亭)で撮影されたようだ。他に、ステンドグラスがきれいなサント・シャペルなども登場するが、こうした”観光編”は不要。

後半、いよいよパリ公演も終わり、再びル・ブルジェ空港へと向かう一行。そこで事態が急展開、大騒ぎになるのだが、おそらく実際もここで描かれているとおりだったのだろう。

エイズで54であっけなく没してしまったのは惜しまれる。そう言えば、フレディー・マーキュリーもエイズで死んだっけ。彼の場合は更に若い45。同じパリで亡くなったと言えばマリア・カラスも享年54!

なお、タイトルのホワイト・クロウ(白いカラス)とは、特別な才能を持っている者を指しているようだ)

以前見た「ホワイトナイツ/白夜」('85)では、同じくソ連から亡命したミハエル・バリシニコフが黒人ダンサー、グレゴリー・ハインズと華麗に舞ったシーンが忘れられない。

#32 画像はIMDbから。