190707
今度、大田区の文化振興協会主催の「こうもり」で同じ舞台に乗ることになったソプラノ、種谷典子のドゥオコンの情報をFB上で知って、さっそく予約して、合唱練習の合間に雨中、駒込まで。立派な名前の付いたこのホール、民家の2階にあるミニホールで、座席数は50程度か。よく見たらその昔、ソプラノ寺田ちえみ(チエミン)のリサイタルで来たことがあったのを思い出した。
最近はこのスタイルのミニホールがあちこちに出現しているが、このホールは極め付けの民家スタイル。しっかりと表札を見ないと通り過ぎてしまうほどの構えで、玄関もごく普通の作りで、1階奥ではなにやら住人の団欒の声が聞こえてくる。そのまま2階へ上がると、自分では早く着いたつもりだったが、すでにいい席は大半埋め尽くされていた。それでも、ベストの位置に陣取れたのはラッキーだった。客は、毎度お馴染み、ほぼ高齢者。
種谷典子は広島出身、国立音大の声楽専攻(オペラコース)を首席で卒業した逸材。卒業後、活発に音楽活動を展開していて、すでに数々の賞を取って来ている。海外留学も経験しており、見た目以上に場数を踏んでいる印象だ。声はまごうことなきリリコ・スピント。強靭な喉の持ち主。ちょっとこういうホールでは声が突き抜ける感じで、大ホールで一度しっかり聞いて見たいと思った。
それと、イタリア語、ドイツ語、フランス語、いずれの言語も発音がすこぶる正確で、この点も大いに評価できると感じた。前半よりギアを上げた後半の出来栄えが断然本領を発揮していたのは当然か。ドン・パスクワーレなどのアジリタも、実に巧みに転がし、こんな逸材がいるんだと改めて思った次第。
表情豊か、仕種もごく自然、トークもこの年齢にしては随分慣れていて、うまく客を笑わせるなど、実にスボを心得ていて、これは予想外だった。
ドビュッシーの星の夜は、いかにもフランス的な調べが特徴の美しい曲。その次のマルクスのノクターンだが、事前に解説があったが、ピアノ伴奏がとてつもなく、こんな伴奏でよく歌えるものと感心しきりであった。
アダンの華麗なる変奏曲(原曲はモーツァルトのきらきら星)は、以前三宅理恵の超絶歌唱で聞いてびっくりしたが、今回の種谷典子による演奏もまさるとも劣らぬ出来栄えで、超高音から低音までピアノとの掛け合いで激しく上下するパッセージも難なくこなし、唸った。
最後のマイアベーアの「ディノラー」からの影の歌とは、月下で自分の影に向かって話かける狂った女という設定らしい。一種の狂乱の場ということだが、そう言えば「ルチーア」の狂乱の場に一部共通するような楽器との掛け合いが印象的な歌だ。マイアベーアはドイツ人だが、フランスで活躍していた時代に作曲したので、フランス語が使われている。
アンコールはリヒャルト・シュトラウスの「モルゲン」(朝)でしっとりと締めた。
伴奏の齋藤亜都沙は東京出身で同じく国立で学んだ。ピアノ専攻を首席卒業というから、こちらも逸材だろう。3曲ほどピアノ演奏も組み込まれていて、存分にその華麗なテクニックを披露してくれて、こちらも大満足。まことに充実のドゥオコンサートだった。
#40 文中敬称略