ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「シモン・ボッカネーグラ」演奏会形式@かつしかシンフォニーヒルズ

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毎年、この時期にエルデ・オペラ管弦楽団主催の演奏会形式のオペラがここ何年か連続して開催されており、ほぼ聞きに行っているのに、今年はすっかり失念していて、フィレンツェ在住の名バリトン渡辺弘毅のFB投稿で初めて知った次第。幸い、予定を入れてなかったので早速彼経由、チケットを入手。

更に、昔から応援している高橋絵理もこのシリーズの常連だけに、絶対にはずせない公演であった。

渡辺弘樹、重厚かつ甘美な表現のできる、日本でも数少ないバリトンという認識でいる。その彼が難病で昨秋、帰国して大手術を受けていたことを知ったのも、ごく最近のこと。愚亭も軽度だが、現在頸部に同様の問題を抱えているだけに、とても他人事と思えない心理状況である。

手術から1年も経過していないのに、いきなりヴェルディの作品中でも、とりわけ重厚かつ難易度の高いシモンに挑戦するとは、かなり無鉄砲にしか見えなかった。はらはらドキドキして開演の時を迎えたが、まあ、幸いそれは杞憂に終わった。それほどびっくりさせるほどの演唱を示し、その大胆さにまずは脱帽である。

以前の声はきちんと出ているだけでなく、気のせいか、一味加わったような新鮮さも感じた。(ひさしぶりに聞いたせいかも)特に終幕近くでシモーネが弱々しく(死ぬ間際だから)歌うシーン、最後の聞かせどころだが、ややファルセット気味に、それでも会場奥まで響かせる技に改めて感動した次第。次は、頸部の手術をすることが決まっているらしいから、安心できないが、速い完全復帰を楽しみにしたい。

高橋絵理のアメーリア、これがまたゼッピン!!成長著しいこの歌姫、会場の広い空間はまさに自分のためにあるかのごとき響かせ方には圧倒されまくった。体力の限りを尽くして、この難役を歌いきった印象。今日は演技を伴わないから楽譜みながらの歌唱に専念できただろうが、演技を伴うとどのような変化が出るのか興味が尽きない。

前半は目の覚めるような真紅のドレス、後半は対照的に鮮やかなブルーのドレスに、大柄な身をつつみ、いよいよ正統派の大ソプラノへと確実に歩を進めているように映る。

恋人役のテラッチこと寺田宗永は、本作で唯一のテノールで、出番は上二人ほど多くはないが、重要な場面で登場し、素晴らしいアリアも用意されていて、割に省エネで得な役どころかも知れない。この人の勢いのある高音も聴衆を魅了してやまない。高橋とはしばしば共演していて相性がすこぶるよいように感じている。

シモンは正味2時間10分で、特に長いわけではないが、ストーリーが難解で、またこれと言って目立つアリアが多く組まれいているわけでないから、実際より長く感じてしまう。

それでいて、主要キャストにはかなり過重な発声が求められているようで、あまり上演される機会が多くないというのもうなずける。また、男性陣はバリトン・バスの低音勢が4人もいるのに、テノールは一人、女性はアメーリア一人とかなり偏った編成で、ほかにこのような声部を配したオペラは知らない。

演奏会形式とは言え、フルオケが入り、今売り出し中の柴田真郁のタクト、しかもたったの@¥3,000(自由席)であれば人気が出て当然なのに、入りがさほどよくなかったのは、お盆の時期と重なったこともあるのかも知れない。

昨日に続いて、なんと今日もあの縦型のトロンボーンが登場した。幕間に知り合いのマエストロに会ったので聞いたところ、チンバッソというコントラバストロンボーンで、ヴェルディは好んで用いたそうだ。日本では十数台しかないという珍種の楽器。チューバとトロンボーンの中間的存在で、スライド式でなくヴァルブ式だから、細かいトリルなど、スライド式では出せない奏法も対応可ということ。

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これがチンバッソ!楽団員入場のシーンではひときわ目立つ。あまりにキテレツで笑ってしまう。

チューバの代わりに登場することが多いが、昨日のヴェルレクではチューバとチンバッソを合わせて女性奏者が一人で頑張っていたから、この二つの細かい使い分けをヴェルディ先生はしていたことになる。

合唱団、ご苦労様でした。長いオペラだが、合唱の出番はさほど多くなく、スタンバイがやたらに長くて大変だったろうと思う。オケは定評あるエルデ管弦楽団、安心して聞いていた。

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このホール、舞台の天井がやたら高く、響も素晴らしい。アプリコも負けそう。

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左端が柴田真郁マエストロ。中央はバス・バリトン、シモーネの敵役、フィエスコを歌ったジョン・ハオ。愚亭と同じ瀋陽出身だから、終演後、話をしようと思っていたが、チャンスを逃した。

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#53 文中敬称略