ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

立川市民オペラ「トゥーランドット」(ハイライト)

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東京の緊急事態解除の前日だが、ある方からお招きいただき、二つ返事でお伺いすることに。ハイライトとは言え、本格オペラを見るのは何ヶ月ぶりだろう。前回が思い出せないほどはるか昔のことのように思える。そして、思った通り生で観るオペラの素晴らしさにすっかり感動してしまった。辛かったのは、ブラーヴォなどの声援ができず、ひたすら拍手しまくるしかなかったこと。それほど素晴らしい出来栄えだった。

本来は昨年春に全幕上演だったのがコロナ禍で延期され、練習時間がおそらく十分取れなかったことでハイライト版での上演にせざるをえなかったようだ。そんなハンディを負いながら、よくぞまあここまでと思うほど、出色の出来で、深い感動を覚えた。

中でも合唱団が一番厳しい状況だったはずで、特製マスクをかぶりながら懸命の歌いっぷりには、割りに近くで鑑賞していたこともあり、ともすれば主舞台より脇の合唱団の方へ目も耳も吸い寄せられてた気がする。

立川市民合唱団はオケ同様、その実力のほどは昔から定評がある。それもそのはず、プログラムのオケメンバーや団員の一言メッセージを読めば納得である。確かに、この一帯は音大城下町じゃないけど、そうした恵まれた環境にあるのだから。

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短縮版にしたため、前半にはガラコンサートを組んで、聴衆を楽しませてくれた。

カラフを演じた青栁素晴、冒頭からよく声が出ていて、いかにも調子よさそうで、安心して聞いていたが、それでもネッスンドルマが始まると、自分でも心臓の鼓動が早くなるのが分かるほど。いやまあ最後まで立派にしのいでくれて、ひとまずホッと。ハイライトだけに、いきなりそこかよ、ってな感じの歌い出しだから、緊張もひとしおだったことだろう。いやいや、よかった、よかった。

タイトルロールの鈴木麻里子、これまた「これでもか!」と言うほど高音の連続で、よほど強靭な喉でないと耐えきれないと思わせる厳しいアリアの連続。これをきちんとこなしていたのはさすがに立派だった。

さて、おいしいところをひょいと持っていくのがリュウである。美しいアリアを二つも!関西圏でのご活躍がメインゆえ、初めて聞かせてもらった中川郁文が仰天の歌いっぷり!とりわけ最高音のピアニッシモで響かせる技術は超一流かも。参りました!

このオペラの聞きどころの一つがこの二人のソプラノの聴き比べで、方やソプラノ・ドランマティコのトゥーランドット姫、此方美しくも滑らかに響かせるソプラノ・リリコのリューというわけで、その意味ではこのキャスティングは大成功だろう。

それから冒頭に登場する役人がまたやけに上手くて、しかもこの人は役人が終わるとすかさず舞台袖へと回り、役人の格好のまま合唱団のバスパートで低音を響かせるという大活躍。見事だった。

終盤、突然ユッサユッサと揺れ始め、身体がこわばる。まあなんとか大きくならずに収まってくれたが、そうでなければ中断せざるを得ないところだった。ソリストたちには気づかなかった人がいたらしいが、大事に至らず幸いだった。

今日はオケの中にチンバッソ(重低音を発する大型トロンボーン。チューバに近い音を出す)を発見、なんでも日本でこの楽器を持っている人は十数人しかいないらしいので、今日はこれが聞けたのもラッキーだった。

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演奏スタイルも独特のチンバッソ(Cimbasso)

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たまたま2階にいらした某マエストロから拝借した画像

上のカーテンコールだが、もちろんいつもやるように手は繋がないのだ。しかし総監督の砂川稔にはそれが伝わってなかったのか、盛んに両脇に手を伸ばして繋ごうとする仕草が笑を誘っていた。

文中敬称略