ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ゴッドレス -神の消えた町- 」@Netflix

210519 GODLESS 2017 米 1シーズン、全7話 エピソード毎に長さが異なります。最終の第7話が一番長く80分。計452分(約7時間半)製作・脚本・監督:スコット・フランク(一部出演も)

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この作品、最初に気になったのはあの大ヒット英テレビ・ドラマ「ダウント・アビー」で長女メアリーを演じた、いかにも気位の高そうなイギリス人女優のミシェル・ドッカリーさんが西部劇に出演するということでした。

さらに、製作陣にティーブン・ソダバーグの名前を見たことです。もっとも、監督ではなく、製作総指揮という立場なので、金を出した一人という意味しかないのですが、ま、それでもいいと思って。監督のスコット・フランクさんはまったく知りませんが、本作で素晴らしい演出をしています。びっくりです。

男優陣、私にはあまり馴染みがありません。映画よりテレビドラマの方で有名なのでしょうか。それでも男優陣も、みなさんいい味を出していました。

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この女優、メリット・ウィーヴァーさんもいい味を出した一人。刑事物UNBRIEVABLEで、トーニ・コレットと刑事役ですこぶる好演したお馴染みのアメリカ女優。けっして美貌ではないのですが、そこがいいのです。こういう味わいの出せる女優って、他にあまり見ませんからね。

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ラストの見せ場で技を競うミシェル・ドッカリーとメリット・ウィーヴァー

1890年代のニューメキシコの炭鉱村、その名もラ・ベル(La Belleとはべっぴんのこと)とは洒落てますね。実は炭鉱の大事故で84人もの男性が犠牲に。あとは女性ばかりの村になってしまい、炭鉱再建しない限り、寂れること必定。採掘権を狙って外部から怪しげな一団が入ってきて二束三文で手に入れます。なんたって、村側は男手は欲しい、金も欲しいで、不利な条件でも呑んでしまいましょうってなりますよね。

そんな中で、ひとり反対の立場だったのがメアリー(メリット・ウィーヴァー)、旦那に先立たれ、保安官の兄、ビル・マクニュー(スクート・マクネアリー)とその幼な子たちと暮らしていますが、普段からピストルをぶら下げ、スカートなんぞはいたこともなく、町民から実力は認められながらもやや煙たがられる存在。

そして町外れの牧場に、先住民の義母、そして亡くなった先住民の亭主との間にできた一人息子と3人暮らしのアリス・フレッチャー(ミシェル・ドッカリー)がいます。雨の夜、負傷した若者ロイ・グッド(ジャック・オコンネル)がここを訪ねてきて、怪しんだアリスにライフルで撃たれてしまいます。幸い、首筋をかすめた(わざと狙ったとしたら、大した腕前です)だけで、命を取り止め、アリスと義母に介抱されます。ただ長居は無用と、数日で出ていきます。

ロイは貧しい出で、偶然フランク・グリフィン(ジェフ・ダニエルズ)を頭目とする30人ほどの野盗の群に拾われ、そこで育てられ成人します。父親並みにロイに愛情を注ぎつつ、悪辣なことを繰り広げるフランクとこの群れに、ロイはいい加減嫌気がさし、大金をくすね逃亡します。いわばフランクにすれば”息子”に裏切られたことに。

ということで、追われる身になってしまったロイは、一度は保安官ビルに捕まったものの、ひょんなことでアリスに救われ、アリスの家で居候の身に。まさに自分の預かり知らぬ運命に翻弄されるロイです。アリスは飼っている馬の調教と、あわよくば父親のいない一人息子の養育までをもロイに期待していたようです。なかなかこの辺り、計算高いです。

ま、いろいろあって、この野党の群れとラ・ベルの町を固める女性たちとの壮絶な銃撃戦が最後の40分ほど描かれます。これがもちろん最大の見せ場で、うまく撮影されていて、それも驚きます。最後はメデタシメデタシなのですが、ロイが兄のいるカリフォルニアに一人去っていくところが辛いです。なんか「シェーン」を思い出しました。できれば牧場でアリスと一緒になってほしいと思わずにはいられなかったのですが、どうやら保安官ビルと一緒になるような描かれ方でした。ま、それもいいかなっと。

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死体累々の中を悠然と行くフランク・グリフィン。悪虐非道の反面、妙に人に優しい一面もあり、憎めない存在として描かれています。

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保安官助手、ホワイティートーマス・ブロディ=サングスター)と保安官ビル(スクート・マクネアリー)。ビルはロイを追って、ほとんど村にはいません。

本作はバリバリの西部劇ですが、ミシェル・ドッカリーさん始め、ジャック・オコンネル、そして保安官助手のトーマス・ブロディ=サングスターと3人もイギリス人俳優が出演しております。ドッカリーさんも「ダウント・アビー」では貴族としてきわめて上品なクィーンズ・イングリッシュをしゃべっていましたが、ここでは一転訛りのきついアメリカン英語を駆使していました。それも低いドスの利いた声だけに、まったく別人のごとし。

こんな素晴らしい西部劇をつくっちゃうんだから、ネットフリックスもほんとうに大したもんだと思いますねぇ。見応えたっぷりの7時間半でした。そうそう、それから撮影もすばらしかったぁ!フラッシュバックになると、モノクロに近いほど彩度を下げて、荒涼感、たっぷりでした。