ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「セルセ」@めぐろパーシモンホール

210522 東京二期会のオペラはほんとうに久しぶりです。やはり生で聴ける、観られる喜びを存分に堪能してきました。

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滅多に上演されないオペラ。もちろん初めて見ました。

「オンブラ・マイ・フ」だけ、単独でよく知られるようになりましたが、これがこのオペラ冒頭のアリアだっていうことは、それほど知られていないようです。私も今日まで生半可な知識で分かったような顔をしておりましたが、全幕を見て、こういう扱いだったということを初めて知った次第です。

当日別紙で配布されていましたが、アリアの数、はんぱないのですね。この時代のオペラですから、後年のオペラ・セーリアなどのアリアとはかなり趣を異にしています。総じて大変短いものばかりですが、メリスマがふんだんに出てくるなど技巧的であり、それなりの唱法を求められます。そして、このオンブラは開幕するといきなり歌われてしまって、なんか楽しみがなくなったような感覚に一瞬囚われてしまいました。その後、女声でも、そしてラストに再度セルセ、すなわちテノールで歌われます。このオペラの詳細については→「セルセ

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土曜日だったので、新堂セルセの方でした。

セルセといきなり言われて、それが実は古代ペルシャ、それもアケメネス朝のクセルクセス大王とわかる方はかなりの音楽通、かつ歴史通でしょうか。こんな時代のペルシャの話なぞ、普通の日本人が詳しく知っているはずないですよね。そういうところもかなり馴染みが薄い原因の一つでしょう。

バッハと同時代を生きたヘンデルさん、オペラはそんなにと思ったら大間違いで、14本も残しています。そして本作は最後から2本目のオペラ作品で1738年に初演されています。その後、彼の興味はオラトリオの方へ移っていくことになります。

いわゆるバロック音楽ですから、楽器の編成からして、なかなか興味深いものがありました。マエストロの前にハの字型にチェンバロが2台、弦中心ですが、フルートやオーボエファゴットトロンボーンなどの管楽器、さらにリコーダーが2本。珍しいところでは、リュートかなと思ったら、なんとテオルボという名前のリュートの親分のような楽器も登場していました。

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Theobro, イタリア語はTiobraという楽器。Chitarrone(大型ギター)と呼称されることも。

弦楽器はヴィブラートはかけず静謐に音を刻んでいくという感じでした。歌唱もいわゆるベルカントのように口を大きく開けず、抑え気味の歌い方でした。みなさん、等しくかなりの力量を備えたかたがたばかりで、とてもバランスがよかったです。(私事ながら、昨年の「こうもり」の抜粋公演で助演としてお手伝いいただいた高崎翔平さんがアリオダーテ役で登場されて嬉しくなりました)

エストロ鈴木秀美の本業はバロックチェリストです。言わずと知れた兄はバッハ・コレギウムの鈴木雅明さん、その息子、つまり甥は鍵盤奏者兼指揮者の鈴木優人さん、さらに夫人は声楽の鈴木美登里さんというまばゆいばかりのバロック音楽一家。端然とした指揮ぶりも、おのずと威厳のようなものが備わっている感じでした。

バロックの調べは、どうしても単調になりがちで、申し訳ないけど、時に眠気を催したことは認めざるを得ません。そんな中、舞台を盛り上げていたのは音楽演奏だけではありません。中村 蓉さんの演出によるコミカルで軽快な出演者の動きからは目が離せませんでした。さらに、装置デザインが色彩といい形状といい、計算されつくしていて、余程稽古したと思われる演者動線で観衆を魅了していました。

また、コスチューム・デザイン、さらに照明もまたこれらに見事に和して、心地よく楽しい空間提供に大きな貢献をなしていたと見えました。後半、突然舞台上部に黒装束で現れた合唱団がまたよりすぐりの一団で、出番は限られていましたが、存在感はハンパなかったです。

今日は、舞台向かって左側のバルコニー席1列目、舞台から2番目という席で悪くはなかったのですが、このホールのバルコニー席1列目は手すりのレール部分が視界を遮るので最悪です。これは念頭に入れて予約したいと思いました。もちろん安全性を考えてのことではるのですが、設計時になにか他に方法はなかったんでしょうかね。とても残念です。

コロナ禍で練習そのものも思うように行かなかったと思われますが、よくぞ立派な本番を見せてくれて、感謝、感謝です。