ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「靴ひも」@イタリア映画祭

210523 LACCI(ひも)100分、脚本・監督:ダニエーレ・ルケッティ

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初めにお断りしておきますが、ネタバレが含まれますので、そのつもりで。        

先日の「もしも叶うなら」に続いて2本目の鑑賞作品です。いやあ、面白かったです。期待をはるかに上回る出来栄えで、大満足でした。それに、人気の俳優がずらりです。それからラベスという名の太った猫と仕掛け小箱が伏線となります。

ローマのラジオ局に勤めるアルド(ルイージ・ロ・カショ)、住まいはナポリで家には奥さんのヴァンダ、長女アンナ、長男サンドロとの4人暮らし。通えないことはないけど、朝早い番組を受け持っているため、週末だけナポリという生活になっています。1980年代後半です。

ある日、突如、アルドが「実はつきあっている女性がいる」とヴァンダに衝撃の告白をします。本人は至極簡単に考えているようですが言われたヴァンダにしてみれば、大ショック、まあ当然ですよね。出てけ、じゃなきゃ、アタシが出ていくからってんで、仕方ない、アルドはすごすご(内面はシメシメかも)ローマの付き合っている女、リディア(リンダ・カリーディ)の元へ。

ああは言ったものの、子供たちのことを考えるとそうも行かず、ヴァンダは作戦変更、ローマのラジオ局まで出向いて、アルドに帰って欲しいと懇願することに。建物の階段ですれ違う女がくだんの女だと直感し、睨みつけます。すごいですねぇ、女の直感!

場面が変わって、ローマの高級そうなマンションでの初老夫婦、実はこれが20年後ぐらい、つまり2000年あたりのこの二人という設定です。子供はそれぞれ独立して二人暮らし。いかにも文化人っぽいたたずまいの室内が映されます。ラベスという名前の猫を、とくにヴァンダが可愛がっています。

ある日、配送業者の女が荷物を届けにきて、代引きなので、言われた額を払うと釣りがないと言われ、んじゃ、あんたのチップとしてとっておきなさいと鷹揚な対応。ところがやりとりを聞いていたヴァンダ(初老のヴァンダ役はラウラ・モランテさすがに老けましたが、まだまだ美しいです!)が、それはやりすぎよ、と責め立てます。ま、いいじゃないかとその場を収めるアルド(シルヴィオオルランドに替わっています)。

日本ではおよそ考えられないのですが、配達業者が室内まで入ってきて、その辺に置いてあるものの品定めみたいなことまでやります。この時、赤い市松模様の小箱をめざとく見つけると、アルドがこれは絶対に開けられない箱だと、謎めいたことを言います。いわゆる仕掛け箱。箱根の寄木細工と同じですね。

これからヴァカンスで二人で海辺の街でゆったり過ごすことに。出掛けに家の近くでさっきの配送の女が曰くありげな男と談笑中。このシーンも伏線みたいに挿入されています。ここでヴァンダが、さっきのやりすぎたチップの件をぶり返して、私が交渉するって降りようとします。アルドがなだめて、海辺へ。

ヴァカンス終えて帰宅したら、部屋中、荒らされてしっちゃかめっちゃか。呼べど叫べどラベスは出てきません。アルドは猫どころでなく、大事な赤い小箱が無事だったことに安堵しますが、中身がぁ〜〜〜!

結局、アルドとリディアは別れたみたいです。場面変わって、現代。若い男女が待ち合わせて、ひさしぶりにメシでもどう?ということに。その前に、猫の餌、やらないとね。ってんで、二人でその家に向かいます。成人したアンナ(ジョヴァンナ・メッゾジョルノ)とサンドロ(アドリアーノ・ジャンニーニ)です。

二人でさんざん両親のことをなじります。そりゃまあ、自分たちをほったらかして外に愛人を作っていたんですからねぇ、そうなりますワ。特にアンナは痛烈にこきおろします。知ってる、父さんだけじゃないのよ、愛人がいたのは?ってサンドロに。じゃ、証拠探し、してみるって言い出すアンナ。

赤い小箱の開け方もちゃんと知っていて、出てきたのはアルドが撮影した素っ裸のリディアの写真です。さらに、マンマの不倫の証拠も探しちゃおうってんで、家中の家具調度品、什器備品類、本、CD、etc.を片端からそこらじゅうにぶち撒け、引き倒し、せいせいとして、ラベスを連れて引き揚げます。(マンマの不倫の証拠は結局、なんだったんですかね)

と言うわけで時間軸をスパッと変えた演出が見事です。すばらしいです。

どうでもいいですが、「もしも叶うなら」にも出演したアルバ・ロルヴァケール、名前からして純イタリア風ではありませんが、ご面相もちょっと違います。いわゆるホリの深い白人の顔ではありません。つまり眼窩が平板でアジア風ですらあります。だから、一度見たら忘れられない女優ということになります。今、イタリアでは最も人気の高い女優の一人でしょう。

猫の名前、ラベスにも謎が隠されていました。宅配業者の女に問われて、アルドはイタリア語のLa bestia(動物、獣)の省略形でラベスだと説明しています。ところがヴァンダ(初老の方)がラテン語辞書で調べると、荒廃、崩壊、衰退、etc.とロクでもない意味なのです。このことは、娘のアンナも後年、弟のサンドロにも解説しています。猫の名前も暗示的に使われているのですね。