ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ラ・ボエーム」@日生劇場

210612 久しぶりに生オペラを聴きに日比谷へ。

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日本語上演は、最近は特段珍しくもありません。オペラファン底辺拡大策の一つだと思います。特に若い層に気軽にオペラに親しんでもらおうという趣向でしょうか。でも、出演者はすでにイタリア語の歌詞やセリフが身体に入っちゃっていますから、改めて日本語を入れなきゃいけないのは、難行苦行だろうと思われます。(コッリーネ役は日本人ではないですから、その苦労がしのばれます。)

日本語上演でも、日本語字幕を出してくれるのはいいことです。歌になると、何を言っているかわからないことの方が多いですから。おそらくですが、本場イタリアでイタリア人がイタリア語オペラを見る場合も、やはり同様だろうと思います。イタリア人でも、歌われれれば何を言っているのか定かでないはず。

今日は、しかしそこではなかったのです。驚いたのは演出の斬新さ!思わず「えっ!」と仰け反りますが、演出は演出家がいかにクリエイトするかということですから、まあ、なんでもありでしょう。受け入れられるかどうかは聴衆が判断すればいいことですからね。個人的にはあまりに奇をてらった、例えば舞台を現代に置き換えて、コスチュームもなにも現代風にしてしまうような演出は好きではありません。その点、今日の舞台は判断が微妙でした。

まず幕が開くと、そこにミミがいるんですよ。暗い照明の下、青灰色の衣装で、青白い無表情の顔でソファに横になって。な、なんで!!??が正直なリアクションです。本来いるはずのない主役の一人がそこにいるんですから。これはなにか霊的なものとでも言うんですかね。だから、ロドルフォやマルチェッロには見えないのです。

後からショナールやコッリーネが加わって大騒ぎする場面ですよね。今日はクリスマスイブだから、そろそろ街に繰り出そうぜって、ロドルフォ以外は出て行っちゃうんですが、彼だけ、まだちょっと詩作の続きをとか言って残ると、そこへ外からドアがノックされミミが登場という運び、ですよ、普通なら。

ところがギッチョンチョン、あとから訪ねてくるはずのミミがもともとそこにいるという演出ですよ!!!どうなるんですかぁ。不思議としかいいようがない演出です。ま、つっこみはその程度にしたいのですが・・・。ともあれ、例の「冷たい手」の場面に。最初の低い音が鳴った瞬間にもうウルウルですよ、こっちは。「ああ、こうなって、ああなって・・・かわいそうなミミ」って。

ここは宮里直樹くん、すごかったです。以前より確実に進化しています。短躯で太り気味、なんとなくパヴァを彷彿とさせちゃうような雰囲気にやられましたね。しっかり拍手が。そして、そうSi, mi chiamano Mimiです。ここは安藤赴美子さんがしっとり聞かせてくれて、もちろん大拍手。Brava!と叫びたいのをグッとこらえて。

それで、窓の外で、「おおい、まだかよぉ〜、なにやってんだよぉ〜?」って仲間の声が。だって、5分て言ってたのが、もう延々20分以上経ってますから。んで、例のアモール、アモールって、二人で最高音だして出ていく場面。日本語ですから「愛よ、愛よ」はいいんですが、な、なんと階下に降りて行くのは、ロドルフォだけ!ミミは踊り場にいて、1幕が終了。

これって、どうなっちゃうんだろうって、気になりながら、はい、第2幕。本来なら、賑やかな音がガーンて鳴って、クリスマスイブで賑わうカフェ・モミュス付近で、子供も若者もみんなワイワイガヤガヤですよ。ところが、場面はそのまんま。つまり、彼らの住む屋根裏部屋なんですが、背景に外の冬景色なんかが窓越しに見えたりちょっと変化はあります。でもまぎれもなく室内!ところが、これがカフェ・モミュスということらしいんです。かなり強引です。

確かに色々小道具を並べ立ててそんな雰囲気にしようとはしていますが、腰をぬかさんばかりに驚いたのは、ムゼッタがアルチンドロを従えて、な、なんと屋根裏部屋の窓(の筈)から侵入してきたことです。もう、この辺はなんでもありーなってな感じですよね。こちらも観念しました。もうちょっとやそっとでは驚かないぞとね。

第3幕、ここはパリ14区ダンフェールロシュロー近くにあったとされるパリへの出入り口で、毎日、早朝に郊外から物売りやら職人やらがどやどやと入ってくるところです。しかし、ここはやはり室内。税関事務所と思えば室内でも構やしないですけど。まあ、そこは置いておくとして、ここで、ミミ・ロドルフォvs.ムゼッタ・マルチェッロの歌合戦となります。全然違う歌を2組でやるわけで、こう言う時は字幕の出番で、おかげでよく状況がわかります。ちょっとおかしくて、哀しい場面です。ここも涙なしには見られません。

いよいよ終幕。今度は最初の場面、つまり連中の住まいになっている屋根裏部屋。やはり中央のソファに相変わらずミミさま、しっかりおられます。でも、他の連中からは一応見えないことになっています。見えないのだけど、演技には途中から参加しちゃうんですね、これが。

そしていよいよ別れの時がきます。1幕からウルウルしていますから、もうどうにもなりません。涙滂沱ですよ。ミミの安藤さんがうまいです。この方、以前から存じ上げていますが、舞台姿も歌唱も抜群ですからね。今回は衣装はずーっと同じ、ちょっとくすんだお針子の衣装のままで、そこはちょっと気の毒でしたが。

ということで、ソリスト陣、すばらしかったです。合唱はまったく表に出ず、すべて裏側でちょっとかわいそうでした。カーテンコールで初めて姿を現し、やんやの喝采を浴びていました。ほんとにご苦労さまでした。

実に変わった演出のラ・ボエームでしたが、終わってみれば大感激でした。主役二人を含め出演者、バランスが取れたうまさでしたね。童顔ながら、すでに中堅どころのマエストロ園田隆一郎が振った新日フィルも言うことなし。

また装置デザインもすこぶる優れていました。METの牙城に迫りそうなすばらしいもので、もうこういうレベルが普通に日本の舞台で見られるようになったのも嬉しいですね。おそらく予算的な事情もあったのでしょう、屋外シーンをすべてカットしたことで、装置も少なくてすんだでしょうし、子供たちや鼓笛隊を出せば、コロナ禍での練習が大変で、そうした裏の状況を考えて必死で考え出したプランなのだと理解しています。

幕間に、久しぶりに会った、やはりオペラ好きの先輩と話していたら、会話はご遠慮くださいとなんども注意書きを持ったスタッフが回ってくるので、さすがに諦めました。その代わりというか、終演後、ミッドタウンまで歩きながらしばし近況報告とオペラ情報交換をしました。

ミッドタウン前に日比谷公園までの遊歩道ができていて驚きました。1年半ぶりなんで、無理もないですが、東宝ツインタワービルも消滅していて、さらに驚いた次第。いやぁ、東京はすごいですね。まだまだ変貌中。