211007 フランス・イタリア・ベルギー合作、2019 HANNAH 93分、 監督:アンドレーア・パッラオーロ(北伊トレント生まれのイタリア人、39歳!17歳で渡米、以後、アメリカで映画の道へ)
上に書いてあるように確かに渾身の演技は疑いようもありませんでしたね。この人の作品、若いころの「地獄に堕ちた勇者たち」('69)ぐらいから見ていますが、中でも「さらば愛しき女よ」(Farewell, My Lovely)('75 原作、レイモンド・チャンドラー、共演、ロバート・ミッチャム)が強く印象に残っています。
本作撮影時は70歳で、あえて老いた肉体をそのまま、ありのままに晒していまして、ちょっと引いてしまうような場面も。ま、それも本作の主題でもあるわけですから。
舞台はベルギーのどこか地方都市。あえて特定できないような撮影ぶりで、電車やバスに乗車している場面でも駅名やバス停の名前、通りの名前など徹底的に表示が見えないように撮っています。
舞台はベルギーですが、撮影はローマだったそうです。しかし電車内の乗客たちの声はすべてフランス語でしたし、ローマを思わせるような風景はまったくなかったので、ま、うまく騙されたのでしょう。
冒頭、音のない世界からいきなり主人公Hannah(ハナーですが、アンナと発音されています)の金切声というか超高音のきしむような音に驚きます。どうやら市民演劇コースのようなところでの演技指導中らしいです。思いっきり凄い声を出してください、という訓練かな。
冒頭こそ驚きましたが、以後、音がまったく聞こえないまま静かァに進行していきます。こうした極端な対比は見事です。ほぼ音のない世界で生きる老女という設定でしょうか。家庭で、夫とのささやかな夕食、二人はまったく口を利きません。
後で分かるのですが、どうやらこの夫、ペドフィリア(性嗜好障害)でこの後、収監されることになります。一人きりになった主人公、これからの人生の覚悟のようなものが表情に現れます。ある晩、ドアを叩く音と「シモンの母親ですが、よくも他人の子供にあんなことを・・・、恥ずかしくないのですか?」と抗議の声が。
久しぶりに息子と孫たちに会おうと、自分でケーキを焼いて、大事そうにそれをもって息子の家に向かうのですが・・・ひどい仕打ちにたまらず駅のトイレで号泣、というより慟哭します。その後、夫が可愛がっていた愛犬(キャバリア種)を手放し、文字通り身一つとなります。
プールで、一人泳ぐアンナ、シャワーを浴び、身繕いをする姿に孤独がまとわりついているように見えます。駅構内、エスカレーターを使わず、一人階段を降りていくと、すこに電車が入ってきます。
こうした演技は、シャーロットさんでないと、なかなか難しいんだろうなと感じながら見終えました。それにしても、この人の語学センスは大変なもので、イタリア語、フランス語は母国語なみに、すこぶる流暢。クリスティン・スコット・トーマスも英仏の完全バイリンガルですが、シャーロットさんは完全トリリンガルだから、ちょっと他の俳優には見当たらないのではないですかね。