ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ONODA 一万夜を超えて」

211012 ONODA, 10,000 NUITS DANS LA JUNGLE フランス / ドイツ / ベルギー / イタリア / 日本 174分とかなりの長尺。脚本・監督:アルチュール・アラリ(監督としては2本目)

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今年のカンヌ映画祭で「ある視点部門」のオープニングを飾った作品ですから、それなりにフランスでも話題作であったのは間違いないでしょう。ただ、一般のフランス人にとって、この種の作品はどのように映ったのか、大変興味があります。そもそもフランス人が撮ったというところに、まず驚きます。

そういえば、一昨年でしたか、「真実」という作品をすべてフランスの現地ロケでカトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノーシュ、イーサン・ホークらの名優をキャストにして是枝裕和が監督したことは結構話題になりましたね。それとは、ちょっと違うでしょうけど、それほど不思議がることもないのでしょう。

小野田少尉が29年ものジャングルでの生活を終えて帰国したのは1974年で、グァムから生還した「恥ずかしながら」の横井庄一の2年後でした。当時のことはよぉ〜く覚えています。冒険家の鈴木紀夫さん(仲野太賀)が”発見”したことも記憶に新しいところです。

小野田が陸軍中野学校二俣分校(浜松)で上官の谷口義美(イッセー尾形)から徹底的に洗脳され、どんな状況下にあろうともぜったいに玉砕は認めない、生還せよと叩き込まれたのでした。そして23歳の小野田が1944年末に向かった先はマニラ湾の入口付近にあるルバング島でした。既に敗色濃い日本軍はちりじりばらばらになっており、死守できるような状況ではありません。

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行動を共にした4人。一番若い赤津(左から二人目)は逃亡(後、米軍に投降)、中央の島田は現地民間人に眉間を撃ち抜かれ即死、左端の小塚は最後の最後に地元警察により射殺。

かなり脚色されていますが、3時間近い作品でほとんど飽きることなく画面に釘付けになっていました。どのように資料を集めて、それらを映像に落とし込んだのか、大いに興味を惹かれました。もちろん”発見者”たる鈴木紀夫の談話なども参考にしたでしょうし、小野田自身も相当量の記録を残していますから、かなり忠実に描いたとは思います。

上官だった谷口が鈴木から現地に飛んで、本人に直接状況を説明し、除隊命令を出してほしいと頼まれますが、当初、昔のこととして覚えていないなどと口走り、鈴木からの申し入れに抵抗したのは、小野田をそこまで追い込んだ責任を感じていたからに他ならないでしょう。でも、結局最後は現地に飛び、小野田と劇的な対面を果たします。(イッセー尾形のメイク、30年経過を考慮すべし)

若い頃の小野田を演じた俳優もなかなか切れ味がよかったですが、後半は津田寛治が演じていて、これが小野田そのものという感じで、素晴らしい演技だったし、キャスティングが見事という他ないです。ヘリコプターで現地を後にする機上の小野田の表情が実になんとも言えないもので、涙腺、ゆるみます。

ロケ地はルバング島ではなく、カンボジャにしたのは、かなりの犠牲者を出した地元民間人の感情に配慮した結果かも知れません。