ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「最後の決闘裁判」

211020 THE LAST DUEL 2時間半、米英、製作(共)・監督:リドリー・スコット、脚本:ニコール・ホロフセナー、マット・デイモン、ベン・フレック 

f:id:grappatei:20211021123203p:plain

なんとシュールなデザイン!

「もし夫が決闘で負ければ、なんと自分も生きたまま火炙りに処せられてしまう。そんな理不尽な!でも、事態がこうなってしまった以上、ここで引くわけには行かない。己の信念に従うのみ。」

なかなか見事な覚悟を決めたのは14世紀のフランスに実在した騎士の妻、マルグリット(ジョディ・カマー)です。彼女は騎士ジャン・ドゥ・カルージュ(マット・デイモン)の妻です。夫がスコットランドへ出征中、夫の母親がある日、自分の召使いも全員引き連れて外出した時に事件が起きます。

強姦か和姦かをめぐって裁判になります。相手は夫、ジャンの従騎士で、日頃良好な関係にあったジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)ですから、事は面倒なのです。妻にまったく落ち度はなかったのかが裁判の一つの争点でもあったのです。実は、マルグリットはジャックに対し、好意を抱いていたことが明らかになります。

裁判で決着がつかない場合、その時代には決闘裁判という”制度”がまだ残っており、証人も証拠もないので、二人の決闘になります。6世紀ごろから裁判で決着がつかない場合は決闘による決着を認めるというゲルマン法があり、この映画の14世紀まで続いたそうです。その後、廃止されたようです。現代人の考え方からすれば、そんなアホな!ということですが。

中盤までこの事件の概要を3章かけて描きます。黒澤 明の「羅生門」のスタイルを意識したのか、主役三人それぞれの視点で描かれます。まったくというか、似たようでいながら、微妙なところがすこしずつ異なる描かれ方で、その点、興味しんしんで画面に釘付け状態です。

そして、終盤が一気に決闘シーンへとなだれ込むのですが、これがまた凄いシーンの連続で、身体が強ばり、みていてほんとに疲れました。それほどの演技であり、撮影手法であり、録音技術の高さで、こういうのを見ちゃうと日頃、映画館なんか行かなくても、NetflixAmazon Prime、huluで一向に困らないもんねぇと豪語していたのが嘘のようになりますね。こういう作品はどうしても映画館で見ないとダメでしょう。興味が半分そがれますね、間違いなく。

いやあ、参りましたねぇ、この作品には。「燃えよ剣」を見ようか迷った末、こちらにしたのは正解でした。これだけの熱量が画面から伝わって来ようとは。「ベン・ハー」のメッサリとの激しい競馬のシーンを思い出しましたね。それほどのド迫力!

マット・デイモンという俳優、見た目、あまりパッとしませんが、やる時はやるもんですね。この作品では、脚本を書いただけでなく、製作にも名を連ねていますから。ベン・アフレックはそれほど重要な役柄ではありませんが、やはり脚本も製作もやっています。

ジャックを演じたアダム・ドライバーもいい俳優です。ずいぶんいろんな役を演じ分けられる器用な俳優です。ここでは、どっしりとした従騎士を演じており、こりゃマルグリットが惚れるのも無理はないし、ジャンよりよほど男っぷりが上ですからね。ジャンは凡庸だし、細かいことにこだわる卑小な男に描かれすぎて気の毒ではありますが、最後の最後に男を上げましたね。

なお、アダム・ドライバーは、間もなく日本でも公開される「ハウス・オブ・グッチ」をリドリー・スコット監督の下で、本作のすぐあと、撮影に入っているそうです。

マルグリットのジョディ・カマー、愚亭は初めてこの作品で見た女優です。品もあり気高さも感じます。演技も悪くないですが、なにせ男二人の出来が良すぎて、ちょっと割りを食った感があり、気の毒でした。

ところで、撮影現場は新型コロナ禍で、やはり影響は受けたようです。フランスでの撮影は終了し、舞台をアイルランドの古城跡(カヒアー・カースル)に移して、1時間分を4週間かけて撮影したところで中断されたそうです。

f:id:grappatei:20211021134331p:plain

中世風の音楽もとてもすばらしかったです。これって実話ってことですが、よく記録が残っていたもんです。今から700年以上前の事件ですからねぇ。