ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

ヴィットリオ・グリゴーロ テノールコンサート2021

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いやまあ、なんと表現すればいいんすかねぇ、こういうオペラ歌手は。ちょっと規格外っていうんですかね。オペラ歌手と思ってると、いい意味で拍子抜けしますよ。オペラも歌えちゃうグレート・エンターテイナーっていう括りかも。(そんなジャンル、もちろんないですが)

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愚亭のオペラ入門は割と早いので、デル・モナコテバルディマリア・カラス全盛の頃ですから、どうしてもその辺の人と比べてしまう癖があって。それにしても、イタリア人テノールでは久々に超弩級が登場したと勝手に思っています。やはりちょっとタダモノではないなぁというオーラを全身に纏っています。力強く、抜きん出た発声は、モノが違うって思わせてくれます。近年、中南米やスペイン、旧東欧系にトップの座を明け渡して久しいテノール界と思っていたところにこの人が現れて、そりゃ嬉しいです。(出身地にこだわりを持つことはナンセンスかも知れませんが、イタリア贔屓なんで、どうしても)

すでにYouTubeなどで聞いていましたから彼の力量のほどは分かっていましたが、やはり生で聴くって違いますよねぇ。演奏会で3万円も払ったって記憶があまりないのですが、昨年1年間ほとんど演奏会に行けなかったことを考えれば、取るに足らない額とも言えます。

場内は、ほぼ6割ぐらいの入りで2階などは空席が目立っていました。それでもフルスロットル歌唱は冒頭の威勢のいいロッシーニの「ラ・ダンツァ」から終演まで2時間以上たっぷりと。いきなりどえらい勢いで登場し、舞台狭しと動き回ること。とにかくサービス精神、まことに旺盛で、サイド席にも後方席にも目配りを絶やさず、そして聴衆とのアイコンタクトを取り続けるって、まあ見たことないですね、こういう光景は。今回、P席を買った聴衆は最高のコスパを楽しんだことになります。

しかしですねぇ、360度回転して歌うわけですから、耳で聞くというより目で聞くということに。もちろん、聴かせどころの演目は移動を最小限に抑えて、じっくり聴けたのは幸いでした。特に、心に染みたのが「トスカ」1幕の「妙なる調和」、「カルメン」2幕の「お前が投げたこの花は」、そして「道化師」からの終幕の「衣装をつけろ!」で、身震いするほどの歌唱でして、これが聴けただけでも大満足でした。ただ、Vesti La Giubbaは、彼の声にはやや負担がかかり過ぎだったかも知れません。

後半は、かなりおどけたというよりふざけた舞台で、少々やりすぎかと思う場面も。メキシコの「シエリト・リンド」、スペインの「アマポーラ」、「グラナダ」とスペイン語が3曲続くのも多少違和感が。「忘れな草」は舞台上の移動が一番激しかったかな。

指揮者のマルコ・ボエーミ、やたらグリゴーロとは相性はよさそうだけど、指揮者としての評価はどうなんでしょうかね。ローマ大学法学部出身、サンタ・チェチリア音楽院で本格的にピアノや指揮法を学んだらしいのですが、いまいち技量のほどはよく分かりません。今回は演目の変更が随所にあったらしく、一度などは、首席チェリストに向かって指揮棒を振るのですが、音が鳴りません。打ち合わせと違った演目を振ったようで、しきりにマエストロが申し訳ないという仕草をしていました。

その後も、急に打楽器奏者や金管奏者がグリゴーロから舞台前方に出てくるよう求められて、即興でいろいろやらされたりして、場内の爆笑は買いましたが、やらされる側は大変な様子でした。ま、ことほどさように最後はおふざけでどんどん時間が経過して、こっちとしては、もっと聴きたいのにと、ジリジリする思いで終演となりました。予定を30分以上も超過してました。最後の「オー・ソレ・ミオ」も、どうでもいいって感じで聴いていました。ほんとは、もっとこれぞグリゴーロって感じの演目が聴きたかったんですがね。