ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

ミューザ川崎で「アイーダ」を堪能

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高齢になるに伴い、どんどん行動範囲が狭まっています。もちろんコロナ禍ということもあるのですが、いつもは多少遠方でも構わず出かけていったものですが、最近はコンサートやオペラも家の近くのアプリコホールや、電車で一駅の川崎、映画館ももっぱら川崎の映画館群を利用することが増えていて、これまでのようにいい作品を求めて銀座、渋谷、有楽町方面まででかけることも徐々に減りつつあります。特に寒い時期の夜間は避ける傾向にあります。好奇心を”老い”が追い抜いていくようです。

さて、今回はホールから定期的に送られてくる案内を見て偶然知ったのがこの公演です。これはめっけものとばかりほくほくとネットで予約しました。S席で¥5,000はありがたいです。幸い、1階のいつも好んで予約する席が取れ、ラッキーでした。

そもそも本格オペラ上演用には作られていませんが、いろいろ工夫してここで上演されたオペラって、結構見ています。演奏会形式とは違って、簡素ながらもそれらしい舞台”装置”は施されており、コスチュームなどもしっかり着用して動きのある上演です。オペレッタのようなものなら、ともかく今回はヴェルディのグランド・オペラ、オペラ・セーリアですから、どのような工夫を凝らしたのか興味しんしんでした。

まず舞台中央に弦楽器を中心にこじんまりとオケが配置されています。珍しいのはピアノが奥に、シンセサイザーと並んで置かれています。そのすぐ右横(こちらから見て)にはティンパニー。管楽器はゼロ!!!これはかなりのけぞりますねぇ。なぜ、こう言う風にしたのか、おそらくプロダクション制作側も悩み抜いた結論なんでしょう。

まずダンサーも含め演者が動き回れるスペースを確保することが第一命題だったのではないでしょうか。オケの手前、そして側面、後方の山台の上などしっかり動線を確保してありました。でもねぇ、木管はピアノやシンセで置き換えるとして、金管はどうしてくれるんだよ!ってなりますね。金管抜きでのアイーダ演奏、考えられませ〜ん!

予算が限られているのは明白ですが、金管奏者を排しても大した節約にはなりません。むしろ、前記のとおりスペース的に奏者を配置するだけの余裕がなかったか。あるいは、感染予防対策を厳しくするため、ソリストを除く全員がマスク着用で臨む。そのためには管楽器奏者は含めないとか、いろいろ想像してしまいました。

ちなみに舞台後方上段、P席はもちろん、左右に広がる両翼まで合唱団が一人おきに配され、黒の衣装、黒のマスク姿で譜持ちで歌いました。練習期間が限られていたと思われますが、よく頑張りました。

でも、しかし、アイーダ・トランペットは登場しました。2階客席、左右に2本ずつ。ですから、トランペット奏者は会場に少なくとも4人はいたのです。スペースの問題なら、バンダとして舞台裏でも吹けたはずなのです。

幕が上がると、と言っても幕はありませんが、いきなりテノールの「清きアイーダ」です。これって、トランペットの華やかな前奏がまずあって、Se quel gueriero io fossiとなるのですが、ここをピアノですから、ずっこけますよ、かなり。村上敏明さん、かわいそうでした。裏でもいいからせめてトランペット、吹いてくれよって思いましたもの。

まあ、そんなこんなで、進行していきます。今回、ソリストはどなたも素晴らしいです。ラダメスをやった村上さん、10月の立川オペラ・ガラコンでは、本調子でなかっただけに、あれから5週間あまりで復調しているか、大いに気がかりでしたが、まったく杞憂に終わりました。いつもの輝かしい高音をホールいっぱいに響かせてくれて大満足。

前にも書いたことがありますが、舞台のセットが簡素であればあるほど、歌に集中して聴くことになるので、そこはむしろこうした舞台の方が歌手の真価を実感することがよくあるのです。今回もまさにそれが当てはまった舞台でした。ラダメスが第3幕で、これだけ高音を連続で出し続けてたことを、初めて知った次第です。

アムネリスの鳥木弥生さん、貫禄十分で歌唱も芝居も言うことなし。主役のアイーダを演じた百々(どど)あずささん、初めて聴かせてもらいましたが、確かにパヴァロッティが認めただけの技量を示しました。ドランマティコに近いスピント系ソプラノですね。かなり豪快です。

アモナスロの高橋洋さん、まだ若いはず(40前?)ですが、進境著しいです。ランフィスの伊藤貴之さんの存在感、只者じゃないです。あれだけ響かせるバスはそう多くはないでしょう。いつもは主役を張ることの多い所谷直生さんを伝令で使っちゃうって、ずいぶんぜいたくなキャスティングです。

ダンスのシーンもしっかり入れているし、全幕ほぼ端折ることなく上演したのは立派です。企画した「DOTオペラ」とは、言わずもがなですが、百々さん、コレペティの小埜寺美樹さん、そして鳥木さんの頭文字。これだけの公演をやってのける行動力にも驚かされます。

ついでながら、字幕の完成度の高さには感心させられました。訳もわかりやすいし、なにより大変見やすい位置であり、字のポイント・フォントも美しく、言うことなし。