211118 THE MAN WHO SOLD HIS SKIN(アラビア語のタイトルでは皮膚ではなく、”背中”となっているらしい。)チュニジア / フランス / ベルギー / スウェーデン / ドイツ / カタール / サウジアラビア合作 104分 脚本・監督:カウテール・ベン・ハニア('77生まれ、チュニジア女性)合作と言っても、これだけ多国籍は珍しい。あちこちの映画祭でノミネートされ、そのうちいくつかでは受賞に輝いた話題作。
オープニング・クレジットは、白っぽい灰色のもやもやした背景に同色の文字、アラビア語と英語で表示されます。あえてぼやっとさせたかったんだと思います。
タイトルもキテレツですが、中身もなかなか。人の背中に刺青を彫ってそれをアート作品ということですからねぇ、昔あった「パフューム」という、同じく気味の悪い作品を思い出しました。
あの時、調子に乗って車内であんな馬鹿騒ぎしなければ、と悔いたに違いない主人公のサム。彼の発した言葉が当局に通報され、シリアを脱出することに。馬鹿騒ぎのきっかけとなったのは彼女に言われた「愛しているわ!」の一言。
逃亡中偶然知り合った現代アーティストに持ちかけられた提案とは?考えた末、それを受けるしか彼の生きる道は閉ざされているという、どうにもならない現実。生きていさえすれば、いつか彼女に会える可能性は残されるわけですから。
一方、彼に国外脱出されてしまった彼女、親の意向もあり、こころならずも富豪の男と一緒になります。でも、サムに対する愛はとりあえず心の底にしまっておきます。彼女の方も、いつかは会えると信じて。
パリの一流ホテルに滞在し、結構多額な契約金を手にしたサム、彼女に会う手がかりを必死に探りますが、他方、アート作品としての周囲からの扱いには、さすがに心が折れかかります。人間であって物ではないのですから、普通の人間なら当然のリアクションでしょう。
そして、ついにオークションに”出品”された際に、抑えに抑えたサムの感情が爆発します。アーティストとの契約は当然、この時点で終了となります。彼はどこへ行くのでしょう。彼女との再会は?この後、意外な展開が待っています。
アーティストとモデルの橋渡し役、アート・コーオーディネーターを演じます。元々は黒髪で、金髪はあまりお似合いではないです。現在57歳、さすがにそれなりです。2000年に見た「マレーナ」で強烈な印象を残しましたけど、どの後、たいした作品にも恵まれませんでしたね。愚亭がその昔1年ほど住んでいたペルージャ近郊の村の出身なので、個人的に親しみは感じている女優ですが。
ところで、人間の肌にタトゥーによる作品をじっさいに残したアーティストがいるのです。ベルギーのヴィム・デルヴォアイエです。この人の回顧展が2012年、パリのルーブル博物館で開催された時、たまたまベン・ハニア監督がその作品を見て本作を着想したそうです。それにしても、うまいこと中東のシリア紛争、IS問題やら難民問題を絡ませて作るものと感心させられました。
なにもわざわざ人肌に作品を彫らなくてもいいと愚亭などは思うのですがねぇ。あまりいい趣味じゃないです。結局、サムの背中はどうなったか、それはエンドロール前に解説があります。
ついでですが、BGMにヴィヴァルディなどのバロック音楽の弦の強い響きが大変効果的に使われています。