220114 THE FATHER (原題にはTHEが入ります。もちろん、特定された父親ということだからでしょう)話そのものも素晴らしいのですが、オスカー受賞歴のある二人の演技が見ものです。アンソニー・ホプキンスは本作で「羊たちの沈黙」に続いて2度目の米アカデミー主演男優賞を受賞しました。一方のオリヴィア・コールマンは本作では助演女優賞のノミネートでしたが、「女王陛下のお気に入り」(2018)では、アン(ここでも!)女王を”怪演”してアカデミー主演女優賞を取っています。
世界中、どこでも起きうるお話です。高齢者にはとりわけ見につまされます。親の認知症が徐々に進行していくのを間近で見ている肉親はどのように接すればいいか切実です。本作では、娘アン(オリヴィア・コールマン)がその辛い役をやります。
いずれ施設にと思いながらも、できるだけ今の環境下で介護して、時折、外から介護人にお願いすれば、というのが、まあ一般的な解決策でしょう。ところが、これまで良縁に恵まれなかったアンにこんな時に運命の人が現れ、しかもパリ在住ということになるからさあ大変。親父にしてみれば、「まじかよ。んで、俺はどうなるわけ?」ってなりますよね。
従来のこういうテーマの作品と大きな違いは、父親側の視点で進行していくので、見ている側も父親になったような感覚に捉われて、画面を見続けます。娘にパリに行かれてしまう、大変だ、と思っている父親の前に現れた娘、次には「誰がそんなことを言ったの?パリってなあに?私はずーっとロンドンにいるわよ、お父さん」てことに。
急に娘のダンナが登場したり、自分の家だと思ってたら、娘の家だったり、認知症の症状はどんどん進行していきます。介護人が自分の次女にそっくりだと思って喜んでいたら、次にあった時は別人!(思い込み)
この場面の撮影は辛すぎて、介護人役のオリヴィア・ウィリアムスはアンソニー・ホプキンス相手にこの姿勢をとり続けるのが無理と思ったようです。また撮影クルーも全員涙だったとか。
久しぶりに心から感動する映画に出会えました。文句なく秀作です。
ところで、原作はお芝居で、セリフが大量だったそうで、映画ように相当手直ししたようです。先日見た「シカゴ7裁判」で悪名高き裁判官を演じたフランク・ランジェラが芝居では父親役だったそうです。アンソニーとフランクは変な因縁で、アンソニーは1937/12/31生まれ、フランクが1938/1/1生まれとほぼ同年、二人ともニクソン元大統領を演じているのですね。
本作の中で、自分の生年月日を言う場面があるのですが、それは自分自身のものでした。(ゼレール監督の意図かどうか分かりませんが。)このフローリアン・ゼレール監督、まだ40歳のフランス人!共同で脚本も執筆しています。父親役にはアンソニー・ホプキンスしか考えておらず、役名もアンソニーとして、彼にオファー、返事を待ったそうです。OKが取れてから、二人の会話の中であるオペラのアリアが話題に。それが時折流れるビゼーの「真珠取り」の有名なアリア「耳に残るは君の歌声」というわけです。