ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

プッチーニの初期オペラ「エドガール」by 東京二期会@オーチャードホール

220424


プッチーニの2作目のオペラです。(ちなみに、デビュー作は「妖精ヴィッリ」)二期会としての初演ですが、2006年に市川オペラが初演しているようです。ま、滅多に見ることのできないと言う意味での価値は大ありでした。公演自体も成功だったと思います。見事な舞台でしたし、オケも歌手も秀逸でした。

ただ、作品としては、面白いものではありませんで、主催者、出演者はいろいろと賛辞を惜しみませんが、一聴衆としては、「うううむ!」ってなとこでしょうか。1889年にミラノ・スカラ座で初演されたのですが、案の定、散々不評で、作品の依頼主リコルディ社は台本作者と作曲家に作り直しを依頼。筋立てがパッとしない上にやたらに長いっていうんで、4幕➡︎3幕など、改訂版を出すことに。結局、「マノン・レスコー」、「ラ・ボエーム」、「トスカ」、「蝶々夫人」の後に改訂版上演(1905)ということで、厳密には第2作目とは言えないのかも知れません。

原作がミュッセというのも面白いですねぇ。「杯と唇」(La coupe et les lèvres)という韻文詩劇(Dramaticpoem)だそうです。こんなのがオペラになっちゃうんだから、愉快です。

まずストーリーがぐちゃぐちゃで、まあ破綻していると言っていいでしょう。舞台をチロルからフランドルに移したのはいいとして、史実としては実際にあったことらしいですが、訴えるものが少ないし、台本がやはり不出来としか思えません。

主催者は「アッという間の2時間!音楽の濃密さは他のプッチーニ作品に勝るとも劣らない、後に続く名作を彷彿、ドラマティックなメロディーも素晴らしいが、初期の作品らしさが感じられるところが新鮮!」と賛辞を惜しみませんし、出演者の中にも食事に例えればメインの肉料理が続くようだ、という声もあったようです。

音楽的には、確かに随所にちらっとプッチーニを思わせる箇所がなくはないですが、殊更印象に残るメロディーも少ないように愚亭のような素人には思えてしまいました。

今回はセミステージ形式ということで、演技はありましたが、舞台装置はなく、コスチュームも最低限でした。オケが舞台中央に陣取り、手前のスペースでソリスト陣が歌い、奥に合唱団が紗幕の後ろで歌うというスタイルでした。

このコンチェルタンテというのは、本来”協奏曲的な”という形容詞ですが、オペラの場合は今回のような演奏会形式として使われるそうです。上のチラシにも説明があるように東京二期会としては、この会場を使って過去にも何度かこの形式の上演をしていて、一定の評価が得られている印象です。

今回、ソリストは5人と絞られた数で、それぞれ見事な演唱で心から喝采を送りたいです。テノールとソプラノは当然としてメゾとバリトンの出番が少なくなかったのが印象に残りました。合唱団は今回はマスクなしでよく頑張っていましたし、司式手伝いの侍者(少年)たちが可愛らしく、仕草も歌唱もよく練習した様子が窺えました。

紗幕と言えば、そこにさまざまな映像(ゴッホの作品をうまく利用して)を映し出すのですが、これが実に効果的だったのと、照明も見事でした。

アンドレア・バッティストーニは完璧に全体を把握しており暗譜、さらに歌詞もほぼ頭に入っているようで、手前のソリストたちへのピンポイントの目配りも見事でした。

合唱団はマスクなしでしたが、オケは弦楽プレイヤーがまだマスクしている人が少なくなかったです。それと、マエストロがコンマスと肘ではなく普通に握手していたのがとても新鮮に映りました。

多分、二度と鑑賞することもないし、そもそも公演されないでしょうから、その意味では貴重な体験ができました。今日は券面では10列目と記載されてましたが、実際には3列目で、オペラグラス不要でした。