220623 2019年11月劇場公開 122分 監督:白石和彌
よくできた作品。最近劇場で見た「虎狼の血 level 2」の監督の作品。鈴木亮平は両方で使われていますが、まったく正反対の役どころで、こう言う風に演じ分けられるのは役者冥利に尽きるでしょう。上の写真にあるように、ここでは、内気でマザコン、おまけに吃音というハンデのある大変気の弱い男を演じています。
映画は地方都市での小さなタクシー会社が舞台です。ここで育った三兄妹が主役です。幼い頃に酒乱の父親から暴力を振るわれ、生傷の絶えることのない日常、ある激しい雨の夜、そんな父親を母親が乗っていた車で轢き殺します。15年服役して必ず戻るからと言い残して、母親は去ります。
それから15年後、それぞれに強烈なトラウマを抱えながら、必死で生きてきた三兄妹のもとに母親が現れます。そこから、4人4様に複雑な精神的な葛藤を抱えながらも、家族としての絆は消えることなく、衝撃のエンディングで締めくくります。
あの母親は轢き殺す以外の選択肢を考えなかったんでしょうか。映画ではいつものように泥酔して帰宅した夫を妻がドスンと車を当てるように描かれており、スピードが全然ないので、怪我はするでしょうが、殺人は無理という描き方でしたね。
タクシー会社に採用された、いかにも人の良さそうな男(佐々木蔵之介)が途中で登場します。実は元ヤクザで、別れていた息子と再会して素直に喜ぶシーン。
ところが、その息子が金欲しさにヤクザの手先になっている現実を目の当たりにして、自暴自棄となりウィスキーボトル片手に運転して、タクシー会社に戻り、居合わせた、この母親を助手席に乗せて、岸壁からダイブする寸前、追いかけてきた三兄妹の乗る車に体当たりされて・・・というシーンはいかにも唐突で、この佐々木が演じる男のシーンは全カットした方がよほどすっきりすると思いましたね。
母親を演じる田中裕子はさすがの演技!かなり難しい役どころですからねぇ。夫殺しで、汚名を着せられた子供たちへの精神的虐待はどう償えるんですかね。「これであんたたちは自由だ、これからは何にでもなれるんだよ。お母さんはね、誇らしいよ!」という言葉を残して暗闇に消えていくわけですが、自覚が足らないのに呆れるしかないですね。
印象に残るのは次男を演じた佐藤 健です。やさぐれ感がハンパなかったです。売れない雑誌記者をやってて、事件のことを週刊誌に載せるということをやってのけたりします。そこには彼独特の複雑な心理が働いていたのですが、最後は自分の行動を悔い改めるように動画やデータをすべて削除する場面がありました。
長女で末っ子を演じた松岡茉優もいい演技していて、見直しましたね、この女優。美容師になりたいという幼い頃からの夢やぶれて、地元の寂れたスナックでバイトする身、夜な夜なカラオケで歌いまくり、帰宅は深夜、それも泥酔して。
でも、15年ぶりの母親の帰還を一番素直に喜び、その現実をなかなか受け入れようとしない、特に次男、つまり下の兄には痛烈に当たります。でも、どこかかわいいところがあり、こんな深刻なドラマにあって、時折笑いが起こるのは彼女の存在ゆえでしょう。重要な役どころです。
久しぶりの邦画、それも良作に出会えました。