ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「燃ゆる女の肖像」@Amazon Prime

230314 PORTRAIT DE LA JEUNE FILLE EN FEU 2019 仏 2h02m 脚本・監督:セリーヌ・シアマ

この上のチラシの上部に踊る文句、ちょっとやりすぎって感じかな。いい作品は認めるとして、なにも映画史を塗る変えるとまで書かれちゃうと引いちゃいますね。

でも、なかなか面白い視点で作られた映画ですし、かなり強烈なインパクトを残して終わります。18世紀のフランスの島にある貴族の館が舞台で、古い因習に縛られる家での、まあある種、悲劇を描きますが、同時にそこはかとない希望の灯も見せて余韻を残して終わるという、そんな作品ですかね。

この家の次女、エロイーズ(アデル・エネル)に縁談が持ち上がり、母親は自身がイタリア出身でもあることから、ミラノ在住の高貴な男にエロイーズを嫁がせようと考えます。ここには肝心のエロイーズの感情とか考えとかは一切立ち入ることを許さない厳然たる無言の圧力が存在しています。

今で言う見合い用写真となる肖像画を描かせようと本土から女流画家、マリアンヌ(ノエミ・メルラン)を呼びます。これが後にエロイーズとの禁断の愛の相手になろうとは、もちろん誰も知る由もありません。

エロイーズに知られると面倒だからという理由でマリアンヌには目的を伏せて、エロイーズの散歩友達のように接しながら、画家の目から観察して絵を仕上げて欲しいという、かなり無茶な依頼なんですね。

このエロイーズっていうのが聡明な女で、しばらくすると、もう画家が何しに来たのかバレバレで、同時に二人は急接近し、ある晩、村の火祭りに行って・・・。マリアンヌは、エロイーズがこれまであったことのないタイプの人間で、不躾と思われるほどずけずけと核心に迫るような口の利き方で、驚きますが、同時に新鮮さも感じるのです。

タイトルにある燃ゆる女というのは、いろんな場面で火が効果的にまた象徴的に描かれていることから選ばれたタイトルのようです。結構洒落た題名の付け方でしょうか。

終盤、当然ですが、仕事が終われば画家は離島するわけで、互いに未練たっぷりの情感を残して別れる場面がよかったです。ちなみに、フランス語では相手を呼ぶときはvousを使いますが、親しくなればtuという言い方に変わります。ですが、この二人はずーっとvousのまま。

これは、一応上流階級という設定なんで、tuを使うことはたとえ家族でもないような時代ですからまあそうなんでしょう。ですが、別れ際、一瞬のハグの後、急ぎ足で階段を駆け降りるマリアンヌにエロイーズが一声、「振り返って!」と。この時に初めてtuを使って、Reroune-toi!と言うのです。(「地獄のオルフェ」の裏返し)

ラストシーンは何年か後、とあるコンサートの客席で、2度目の再会をする二人。ですが、目を合わそうとしません。ヴィヴァルディの「四季」から「夏」の激しい弦が響く間、ずーっとエロイーズの横顔です。ここの演技は見事です。苦悩に歪み、涙が流れますが、しばらくすると笑顔に。切ない幕切れです。

主演女優は二人ともほぼ同年代の88/89年のパリ生まれ。なんとアデル・エネルは監督のセリーヌ・シアマと恋愛関係にあり、この撮影の数年前に円満に別れたというから、びっくりです。アデルさん、「午後8時の訪問者」(2016)というスリラーで主演していて、その時はそれほどの印象はなかったのですが、本作での印象は濃いです。目力がすごくそれを最大限生かした演技が強く印象に残りました。